ゲノム編集食品に対する消費者の受け止め方 (2020年8月30日)

佐々義子

くらしとバイオプラザ21
佐々義子



1.消費者の認識といろいろな意見
 アンケート結果をみると、消費者のゲノム編集技術を応用した食品(以下ゲノム編集食品)に対する認識は、期待もあるが、技術が高度で理解できないための不安、予期せぬ影響の発生などの不安もあるということのようだ。ゲノム編集食品に対する意見を以下に示す。遺伝子組換え技術をめぐるリスクコミュニケーションと共通しているものもあれば、ゲノム編集技術で初めて指摘されたものもみられる。
①安全性確認への不安:長期利用の経験がないための不安、遺伝子を操作する違和感、があげられている。遺伝子を変化させた植物が作物として利用されてきたことが知られていないことがわかる。これは遺伝子組換えのリスコミと共通している。
②届け出制:届け出さえすればノーチェックという誤解がある。取り決めへの議論が拙速すぎたという意見もある。行政では2013年に農林水産省農林水産技術会議事務局に「新たな育種技術研究会」が設置され、2015年には「新たな育種技術研究会報告書」が公開されるなど、早期から専門家を交えた議論がなされてきたことを繰り返し伝えていくしかない。
③オフターゲット(遺伝子の変異が目的以外の場所で起こること):従来育種でもオフターゲットは生じるが、それを回避して実用化されて用いられていること、ヒトの医療と農林水産物の育種では、考え方が全く違うことの説明が不十分であるように思える。オフターゲットはゲノム編集で浮上してきた用語である。
④表示:表示義務の対象ではないが、日本のゲノム編集食品の開発者らは十分な事前相談と自ら表示を望んでおり、結果的に国産のゲノム編集食品については消費者の知る権利は守られると考えられる。
 遺伝子組換えのときに言われた、リスクコミュニケーションにおけるボタンの掛け違いを、日本発のゲノム編集食品では回避したいものである。

2.これからのリスクコミュニケーション
 新しい科学技術に関する情報が与えられると受容は高まるが、ある程度以上提供されると受容が低下することが知られている。その理由のひとつに、最近話題になっている「確証バイアス(人には自分の信念にあった情報を根拠として集める傾向がある)」があるのではないだろうか。
 遺伝子組換え食品のリスクコミュニケーションでは、リスクとベネフィットの両方(認知的要因)を説明すればいいと考えられていた。食品添加物、ゲノム編集食品とリスクコミュニケーションの研究が進み、好み、不安などの感情的要因も指摘されるようになった。今では信頼や生命倫理観など、認知と感情の複合要因も併せて考慮したリスクコミュニケーションが求められている(図1※1)
 また、リスクリテラシー教育の研究からは、リスクリテラシー醸成のために押さえなくてはならないポイントとして次のような要因があげられている(表1)
 今後リスクコミュニケーターは、確証バイアスやリスクリテラシー醸成のためのポイントなどを踏まえ、共考、協働、共創を念頭におき、専門家も非専門家も対等に、話し合える場を創りだせるように心がけていかなくてはならないと思う。

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※1 Tanaka, Y. 2017 Risk perception and public acceptance of new breedingtechniques crops. Saarbrücken, Germany: LAMBERT Academic Publishing.
   Tanaka, Y. 2017 Major psychological factors affecting acceptance of newbreeding techniques for crops. Journal of International Food & Agribusiness Marketing, 29(4), 366-382.