衛生学の目線で考える学校給食 (2021年11月22日)

大道公秀人

実践女子大学
大道公秀



私からみた学校給食とは
 学校給食とは、どういったものでしょうか。企業のマーケティングでしばしば用いられるSWOT分析(内部環境を「強み=Strength」と「弱み=Weakness」及び外部環境を「機会=Opportunity」と「脅威=Threat」に分けて整理・分析することで最適の戦略を導き出す手法)の考え方を参考に、学校給食をSWOT分析してみました(表参照)。

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 学校給食の概要をお示しできているでしょうか。
 特に、衛生面で考えてみますと、学校給食には衛生管理のマニュアルとしての「学校給食衛生管理基準」(文部科学省)があることが学校給食の現場にとっては「強み」になると思います。「学校給食衛生管理基準」は、HACCPの考え方に基づきながら、詳細に衛生管理の注意事項が記載されたマニュアルです。それを順守して各学校給食が提供されていることは衛生管理上の「強み」になります。さて、学校給食は、ゼロリスクを求めていきがちな特性があります。つまり安全対策でなく、安心対策に関心が向けられる可能性があるように考えます。学校給食衛生管理基準を見てみますと、食品添加物や原産国に関する記述は安心対策にあたるのではないでしょうか。
 学校給食は、一か所の調理場から大人数への食事が配膳される流通システムでもあります。そのため、何らかの健康被害要因(例えば食中毒の原因になるような細菌)が給食システムの中に存在したとき大規模な食中毒事件に発展するリスクがあります。そのリスクをできるだけ減らすため、衛生管理基準が設けられています。

学校給食 施設の現状は?
 学校給食施設の中には、築年数が長く、老朽化した施設や、施設の構造上の理由からドライシステムの導入や、汚染区域の区別も十分できていない施設もあります。
 老朽化した施設は、食品衛生水準の向上を図るため、適切な修理・修繕や改築が必要です。そのための予算の確保や衛生管理の強化のため、経営者(学校であれば教育委員会)や施設長(校長)は実際に現場におもむき、栄養士ら衛生管理担当者の意見をよく聞き、現場の意見を反映させる体制を作るべきだと考えます。
 一方で、大規模な工事や予算の必要もなく、できることとして、HACCPの考え方の導入があります。HACCPは「衛生管理の手法」ですから、施設の改築や特別な設備も必要とせず、すべての施設で導入可能なものです。HACCPの考え方に基づいた衛生管理のマニュアルとしては「大量調理施設衛生管理マニュアル」(厚生労働省)があり、特に学校給食施設のために書かれたものが「学校給食衛生管理基準」(文部科学省)です。したがって、衛生管理の向上のためにすべての施設で行える確実なことは、まずはこれらマニュアルの順守ということになります。

Withコロナ Afterコロナの学校給食
 新型コロナウイルスの主要な感染経路は、飛沫、エアロゾル、接触だとされています。したがって、会食の感染リスクが高いため、学校給食の現場では給食喫食時の衛生・安全対策は特に注意が必要です。その際に参考となるマニュアルが「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~学校の新しい生活様式」(文部科学省)です。地域の感染状況を考慮しながら、このマニュアルを守り、衛生・安全管理されている学校給食であれば、その感染リスクは高くはならないようには思います。
 新型コロナウイルスのリスクがまったくない環境は当分、ありえません。リスクがあることを前提に、許容可能なレベルのリスクまで、どのようにして下げていくかの議論が必要だと思います。必要以上に恐れず、地域の実情に合わせた学校給食が進められることを願っています。
 最後に、新型コロナウイルスに限らず微生物由来の健康被害対策で有効な手法は「手洗い」です。そして、あらゆる病気への予防に共通して、普段からの健康管理が大切だと思います。