学校給食におけるリスクコミュニケーション (2021年11月22日)

吉田達也

学校給食・食育ジャーナリスト
吉田達也



 現在、栄養教諭の職務は大きく「学校給食の管理」と「食に関する指導」のふたつに整理されている。学校給食の管理は衛生管理基準に基づく危機管理、調理、配食、検食等が前提となっている。

 最近は食に関する指導(学校における食育)に対する期待が大きくなっているために今まで使ったことがなかった食材や新しい献立などに挑戦する機会も多くなっている。そこには教育的な狙いも込められており、食文化の継承を担うための各地の郷土料理や国際理解を深めるため世界各国の料理など、そのレパートリーは日々増えている。それは、魅力あるおいしい給食であることと同時にもちろん安全な給食であることも求められている。しかし、安全を担保するには当該施設設備、調理機器、人員配置、作業工程及び作業動線などに無理があってはならない。

 平成30年には調理業務を外部に委託する学校・施設が全国で半数を超えた。栄養教諭が献立作成・調理手順書まで作成し、それを受けて委託調理業者が作業工程表と作業動線図を作成するという棲み分けが行われているようだが、立場の違いからその献立には「無理がある」という意見を言いにくい状況もある。ここで必要なことはじゅうぶんなコミュニケーションであるし、そのためには栄養教諭も作業工程表・作業動線図が作成・確認できることが前提である。

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 令和2年度の学校給食における食中毒実施状況は4件(表1)であったが、栄養教諭と調理業者とのコミュニケーション不足が指摘されている事故もある。カンピロバクターを原因菌とする事故(※1)においては原因食品をつきとめられなかったが、保健所からは職員間のコミュニケーション不足等なんらかのヒューマンエラーがあったか、厚みのある食品を限られた時間内に調理能力以上の食数分を焼き上げるメニュー自体に問題があり時間に余裕が無かったこと等が考えられるとの指摘があった。

 食中毒とは異なるが、今年3月、小学校の給食において「皿うどん」を提供した際、麺が固く、児童や教師の歯が欠けるなどの事故が発生した(※2)。皿うどんの麺を必要以上(10分程度)揚げたことで固くなってしまったのだ。調理業者が当該調理場で皿うどんを調理するのは初めてだったという。当日の揚げ調理は、提供時間に間に合わせるために混乱していたため栄養士に報告することが困難な状況であったと見られている。

 また、これまで食育的な見地から学校給食強化磁器製の食器を導入するトレンドがあったが、これを樹脂製食器に戻す学校・施設が増えてきた。想定以上に割れることもひとつの要因だが、毎朝、食器の割れや欠けがないか目視で確認する作業が現場を圧迫しているのだ。食器片は危険異物であるため絶対に避けたい。さらに学校給食における地場産物の使用割合も増えている。葉物野菜などからも虫が見つかる。これをシンクで洗浄しながら目を凝らして異物を発見し取り除かなければならない。

 食品安全を担保するための作業時間が増えているのだ。このことを栄養教諭はもとより教育委員会でも再認識していただきたい。栄養教諭は衛生管理責任者であり、施設・設備の衛生、食品の衛生及び学校給食調理員の衛生の日常管理等に当たることも学校給食衛生管理基準に規定されている。業務委託契約書あるいは業務委託仕様書において、受託者が基づくべき法令や設置者や学校・施設の衛生管理マニュアルを明記しておくことも忘れてはならない。また、契約締結後も定期的に調理場において契約に基づく管理運営が行われているかという実態把握や必要な改善措置を図るなどの必要もある。その上で、栄養教諭が行う献立作成は給食調理場のハード・ソフト両方の能力に応じたものとなるよう配慮が必要である。委託者と受託者の認識に差が生まれていると事故は発生しやすい。立場や業務範囲はあるが食品安全に対する考え方と行動に影響を与える価値観や信念といったものの共有、意識の向上が鍵となってくる。HACCPのような技術的要件には当てはまらない「食品安全文化」という考え方も醸成されてきているのもそのためと考えられる。

 子供たちのために考えられた献立ではあるが「この献立、大丈夫?」とお互いに検証できる雰囲気もまた重要である。

※1)杉並区「学校給食における食中毒事故再発防止に関する検討結果の報告について」
※2)朝霞市教育委員会「朝霞市立朝霞第五小学校学校給食における皿うどん喫食による事故報告書(令和3年4月)」