疲労・抑うつと食との関連、抗疲労トクホに向けて (2012年11月21日)

東京大学大学院農学生命科学研究科
大阪市立大学医学部疲労クリニカルセンター
倉恒 弘彦

国民の約1/3の人々が慢性的な疲労を自覚し、その半数近くが日常生活や社会生活に支障をきたしていることや、疲労に伴う経済損失は年間約1.2兆円に及ぶことなどが明らかになってきた。栄養と健康に関しては、終戦直後は低栄養や高塩分に伴う感染症や脳出血などの問題が主に論じられていたが、次第に食事のパターンも西洋化が進み、栄養対策も従来の栄養欠乏から過剰栄養に焦点をあてたものへと転換され、心疾患、脳卒中、糖尿病等の生活習慣病の増加と栄養・食生活の関連が論じられている。
しかし、過剰栄養が問題とされる一方で、『健康日本21』において朝食の欠食率が20年前に比べて明らかに増加していることが示され、国民栄養調査結果の分析でも、朝食の欠食者において一日の食事摂取における栄養バランスの偏りが認められることより、健康を維持するためには朝食の欠食をなくすことの重要性も指摘されている。
我々は、285名の女子大生の疲労と食生活との関連について調査を行ったところ、ほぼ毎日欠食をするものは疲労が強い群により多く、逆に欠食をしないものは疲労が軽い群により多いことが確認された。さらに、主食、副食の調査結果では軽度疲労群は中等度疲労群、重度疲労群の2群に比べ、米の摂取量、魚介類の摂取量、n-3系不飽和脂肪酸の摂取量が有意に多く、米飯と魚介類の摂取量、魚介類の摂取量とn-3系不飽和脂肪酸の摂取量には関連がみられることが明らかになった。n-3系不飽和脂肪酸は植物油のα-リノレン酸、魚に多く含まれるエイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸などの脂肪酸で、血栓予防作用や動脈硬化予防作用、脳機能の改善作用や乳幼児の神経発達に重要な役割を果たしていることが報告されており、このような脂肪酸の摂取量の低下が疲労病態とも深く結びついている可能性がある。
また、軽度疲労群は中等度疲労群、重度疲労群の2群に比べ、「銅」、「マンガン」、「ビタミンB12」の摂取量が統計学的に有意に多いことも判明した。銅やマンガンはスーパーオキサイドディスムターゼと関わり抗酸化作用において重要な働きをしていることがよく知られており、疲労と深く関わっている可能性が高い。ビタミンB12は疲労患者の治療薬として投与されているビタミンであり、傷ついた神経細胞の再生や修復に深く関わっていると考えられている。
尚、学生の疲労症状は抑うつと極めて強い正の相関がみられたが、食との関係を調べてみると抑うつと米飯、魚介類の摂取量との間には関連はみられず、酒類の適量以上の摂取が関連していた。したがって、女子大学生の健康の維持、増進に向けての取り組みには疲労と抑うつは区別して対応する必要性が示された。
今や疲労は21世紀の社会が克服するべき重要な課題の1つとなっており、疾病予防に向けた取り組みは極めて重要である。抗疲労トクホなどを目指した栄養補助食品の開発には、客観的な評価法を取り入れた評価が不可欠であり、平成24年3月に厚生労働省研究班より発表された客観的疲労評価法などを活用した検証が望まれる。