食のリスクコミュニケーション・フォーラム2016 第1回(2016.4.24)より
メディアから見た「食の安全」

平沢 裕子 産経新聞東京本社編集局文化部
平沢 裕子

 内閣府食品安全委員会が平成27年、「健康への影響で気を付けるべきと考えるもの」を、一般の消費者と専門家である同委員会委員に順位付けしてもらう調査をしました。それによると、専門家が10位以内に挙げていたタバコ▷偏食・過食▷アレルギー▷飲酒―は消費者では11位以下に、逆に消費者が10位以内とした食品添加物▷ダイオキシン類▷アクリルアミド―は専門家では11位以下でした。
 調査を見ると、一般の消費者と専門家の認識に大きなギャップがあることが分かります。

 なぜ、こうしたギャップができるのでしょうか。その一因となっているのがメディアの情報かもしれません。
 多くの人に影響を与えるメディアの情報には「メディアバイアス(メディアのゆがみ)」があることが指摘されています。
 例えば、メディアは危険なことは大きく報道します。今から約40年前、食品添加物の発がん性や農薬による健康被害が問題になり大きく報道されました。危険だという情報は、多くの人の命にかかわることなので、大きく報道して注意喚起する意味もあります。

 しかし、危険が去った後に「安全になりました」と大きく報道することはありません。危険情報が1面や社会面で大きな記事になるのに比べ、「安全になりました」との情報は、載っていたとしても小さなベタ記事扱いです。こうしたこともあってか、専門家以外の人にとっては、添加物や農薬は健康被害を起こす危険なものというイメージが今も根強く残ってしまっているのかもしれません。
 また、メディアは、少数の意見や行動を記事にすることが多く、実際はごくわずかの人の意見なのに、報道されることで多くの人がそうした意見をもっているかのような印象を与えることがあります。
 さらに、新聞は対立する2つの意見を両論併記で伝えることがよくあります。両論併記の形をとるのは、メディアの「逃げ」でもあります。断定したことを書いて、もし後で間違っていたら、書いた記者はもちろん、新聞社全体の責任を問われる可能性もあるためです。
 また、危険情報を流す方が楽ということもあります。危険と言った後に、実際に危険ではないことが判明しても責任を問われることはありませんが、安全と言った後に実際は危険だったことが判明すると、「安全だというから信じたのに危険な目にあった」と責められることになります。
   このように、メディアの情報にはさまざまな偏りがあるのが現状です。

 一方で、報じられたメディア情報をどう受け止めるかという問題もあります。今はネットも発達し、さまざまな情報が氾濫していますが、危険という情報と安全という情報があるとき、十分な知識がなければ、とりあえず「危険」の方を信じて行動するのが普通の感覚かと思います。
 さらに、人は自分がほしい情報を集める傾向があります。「添加物は怖い」と思う人がほしい情報は、「添加物は怖い」という情報なのです。「確証バイアス」と呼ばれるもので、人間は自分の先入観を補強する情報をほしがり、先入観と違う情報は拒絶する傾向があるのです。

 ただ、食の安全に関しては、科学的に正しい情報を理解しないと、命にかかわることになりかねません。おかしな情報に惑わされないために、科学的に正しい情報を社会に広める必要があります。それにはどうしたらいいのでしょう。
 さまざまな情報が氾濫する現代は「情報戦争」の渦中にあります。科学的に正しい情報が伝わらないのは、情報戦争に負けている結果なのです。
 科学的に正しい情報を信じてもらうには、いくつか条件があります。まず、情報の発信者が信頼されること。間違った危険情報の10倍以上、正しい安全情報を発信すること。多くの人が共感して情報を拡散してくれること。メディアが大きく取り上げること。すぐにはなかなかできないことばかりです。

 メディアがよい方向へ変わるために、一般の方にもできることがあります。それは、科学的に正しいことを報じた記事が優れた記事であることを、その会社に知らせてあげることです。新聞社の幹部は政治や経済の専門家が多く、科学的な記事の良し悪しについて必ずしも理解しているわけではないためです。新聞社も一民間企業ですので、一番怖いのは読者、消費者です。食の安全は科学的に考えることが大事なことを、新聞社に対してアピールすることで、新聞記事も変わるでしょうし、そこから社会へ波及していくことが期待されます。