不安煽動指数(Aoring Index)

[2014年5月12日月曜日]

 先月4月20日、「食のリスクコミュニケーション・フォーラム4回シリーズ ~食の安心につながるリスコミを議論する」の第1回が、東京大学食の安全研究センター中島董一郎記念ホールにて開催された。

 その際に、フォーラムの主催者代表でもある筆者自身から、特に天然物である食品中のハザードを中心に、食のリスクをどう消費者に伝えていくべきかというリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について発表させていただいた。その中で、リスコミのやり方次第で消費者の不安を煽ってしまうケースが多々見られることから、それを『不安煽動指数(Aoring Index)』という新しい手法で評価することについて提案した。

 『不安煽動指数(Aoring Index)』は、情報発信のコンテンツが以下の10項目に該当するかどうかを判定し、該当した項目数をAoring Indexとして不安をあおる要素がどの程度強いかを評価することが可能である:

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 1.恐ろしさ因子(重篤性)
 2.災害規模因子
 3.未知性因子
 4.情報拡散度因子
 5.管理基準厳格度因子
 6.発信者不誠実度因子
 7.引用元信頼度利用因子
 8.数値比較不在因子
 9.エセ科学因子
 10.『一事が万事』因子

 リスク認知に関して学ばれた方はご存じかと思うが、これらの判定因子の最初の3つ(1.恐ろしさ因子、2.災害規模因子、3.未知性因子)は1980年代にSlovicが唱えたリスクイメージの因子分析であげられたものである。すなわち、これらの因子に該当するものほど、消費者はリスクを過大にイメージする。

 これに該当する典型事例として、原発事故による低線量放射線被ばくがある。「原発事故による放射線被ばくは、たとえ少量でも将来ガンになるかもしれないが、実は専門家もよくわかっていない・・」などという記事は、「1.恐ろしさ因子(重篤性)」、「2.災害規模因子」、「3.未知性因子」のすべてに該当し、消費者のリスクイメージは必要以上に大きくなって、不安を煽ってしまうことがわかる。

 実際、米国産の遺伝子組み換え(GM)食品を論じた最近の週刊誌記事に関して、不安煽動指数(Aoring Index)を計算してみたところ、以下の結果を得た:

 1.恐ろしさ因子(重篤性) ⇒GM食品によるガン発症などを示唆:○
 2.災害規模因子 ⇒TPPにより米国産GM食品大量輸入を示唆:○
 3.未知性因子 ⇒GM食品残留農薬の安全性はよくわかっていないと強調:○
 4.情報拡散度因子 ⇒全国版週刊誌:○
 5.管理基準厳格度因子 ⇒GM食品に関する国内法は冷静な基準:×
 6.発信者不誠実度因子 ⇒輸入食品に問題ありとの結論ありきが明白な記事:○
 7.引用元信頼度利用因子 ⇒海外研究者のコメントを引用し、信頼度を利用:○
 8.数値比較不在因子 ⇒健康被害が起こる可能性のある用量との比較なし:○
 9.エセ科学因子 ⇒GM食品の毒性論文は科学雑誌から削除された:○
 10.『一事が万事』因子 ⇒米国産GM食品輸入でメキシコが肥満率世界一?:○

 以上、Aoring Indexは9個該当したので、必要以上に不安を煽っている記事として「情報発信中止すべし」との判定結果となった。ジャーナリストの方々は、「記事が売れてナンボ」なので消費者の不安を煽る傾向にあるのは性なのかもしれないが、前回のブログでも論じた「科学コミュニケーションのあり方」の観点から、今後は社会的批判を浴びる可能性が高いであろう。

 もちろん本当に危険な食品であるとの科学的エビデンスがあれば、消費者への強い警鐘を鳴らす意味でも、ある程度の不安煽動はやむを得ないとの考え方もある。実際、大きな地震が発生した際に津波警報を躊躇なく出すことは必須だが、その場合たとえ警報が外れたとしても、市民の不安煽動はある程度やむなしと考えるべきである。市民のパニック(ある意味、不安煽動誘発)を恐れて緊急避難誘導ができずに、大きな悲劇につながった事故をわれわれは何度も経験していることは言うまでもない。

 上述の事例は、報道・ジャーナリズムによる消費者へのリスコミを評価したものであったが、不安煽動指数(Aoring Index)は企業から消費者へのリスコミの評価にも使えるので、企業の広報・CSR・お客様相談室担当者は、試みていただきたい。

 以下に、極端な不安煽動チラシの事例をあげるので、ご参照のこと;

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 こちらはあくまで極端な事例であるが、先ほどの週刊誌の事例よりもさらにAoring Indexが高くなって10点満点になってしまったことは驚きである。

 おそらく福島原発事故後、しばらくの期間は似たようなチラシをまかれていた企業も多いのではないだろうか?自社商品の品質や安全性を強調したかった気持ちはわかるが、よもやこのチラシが世の中の消費者の不安を煽動していたとは・・ いまからでも遅くはないので、このような不安を煽動する情報発信は中止していただきたいと節に願う。

 SFSSでは、6月29日(日)に「食のリスクコミュニケーション・フォーラム2014 ~食の安心につながるリスコミを議論する~@東大農学部」4回シリーズの第2回を開催し、リスコミのあり方をさらに議論しますので、ふるってご参加ください。

 フォーラムの詳細ならびに事前参加登録はこちらより
⇒ http://www.nposfss.com/miniforum/



(文責:山崎 毅)