Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに⇒「不正確」
~SFSSが東京大学/UCLAの疫学調査研究をファクトチェック!~

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 欧米でも国内でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が止まらず、「パンデミック」が終息に向かう気配はない中、国の政策として疲弊している観光業/交通産業を救済するための「GoToトラベル」キャンペーンが感染拡大の原因ではないかとして、これを停止すべきとの提言が政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会により発表された。

 ワクチン・治療薬・簡易診断法が整うまでは、国として感染拡大を直接的に抑え込む手段が明確でないため、マスメディアを中心に「GoToトラベル」キャンペーンをスケープゴートにすることで、国民の不安は煽られるばかりの状況だ。このままでは観光業/交通産業はさらに疲弊し、年末年始のかき入れ時にヒトの移動が激減すれば、関連産業の倒産件数が大幅に増えるのは避けられないだろう。

 そんな中、東京大学/UCLAの研究者たちにより、以下のような疫学調査研究が未査読ながら、公表されたので、以下のUCLA津川友介先生のブログをご一読いただきたい:

◎Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに
 医療政策学×医療経済学ブログ 津川友介 12月6日

 https://healthpolicyhealthecon.com/2020/12/06/go-to-travel-and-covid19/

 また、UCLA津川友介氏のTwitterにも、同様のツイートがあります:
 https://twitter.com/yusuke_tsugawa/status/1335559544743727106?s=20

<本共同研究チームの研究者名は以下の通り>
*宮脇敦士(東京大学大学院医学系研究科)、田淵貴大(大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部)、遠又靖丈(神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)、津川友介(カリフォルニア大学ロサンゼルス校[UCLA])

<正式な論文タイトルと著者名>
Association between Participation in Government Subsidy Program for Domestic Travel and Symptoms Indicative of the COVID-19 Infection
Atsushi Miyawaki, Takahiro Tabuchi, Yasutake Tomata, Yusuke Tsugawa.

プリプリントサイト: MedRxiv
リンク:https://doi.org/10.1101/2020.12.03.20243352

 現在、新型コロナウイルス感染症の感染拡大がメディアで多数報じられる中で、「GoToトラベル」キャンペーンが感染拡大のひとつの要因であり、国は早くこの公共政策を止めるべきとの論調が多くなっており、もし東京大学/UCLAという著名なアカデミアの研究者たちから発表された疫学調査研究結果が、市民の年末年始の旅行や帰省などの行動変容につながる可能性があるため、本研究の考察や結論に関する事実検証が必要と考えた。SFSSでは、上記研究発表の以下の言説を対象としてファクトチェック(事実検証)を実施した:

「Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに」

 なお、SFSSファクトチェックの運営方針・判定基準はこちらで参照されたい。SFSSのファクトチェック運営方針は、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のファクトチェック・ガイドライン(2019年4月2日改訂)に準拠して作成したものだが、その判定基準(レーティング)についてはFIJガイドラインと若干異なるので、SFSSのファクトチェック判定基準表を以下に示しておく:

<SFSSファクトチェック・判定(レーティング)基準表>

レベル0(正確) 言説は、科学的根拠が明確な事実に基づいており正確である。
レベル1(根拠不明) 調査の結果、事実かどうかの科学的根拠が見いだせなかった場合。
なお、科学的根拠を示すべき責任は言説の発信者にあるものとする。
レベル2(不正確) 事実に反しているとまでは言えないが、言説の重要な事実関係に
ついて科学的根拠に欠けており、不正確な表現がミスリーディングである。
レベル3(事実に反する) 言説は、科学的根拠を欠き事実に反する。
レベル4(フェイクニュース) 言説は事実に反すると同時に、意図的な虚偽の疑いがある。

エビデンスチェック

本研究結果で 「GoToトラベル」の利用者の群と非利用者の群で、新型コロナに特徴的な症状( 発熱・咳・咽頭痛・頭痛・嗅覚味覚障害など )の出現率を比較しています。その結果、「GoToトラベル」への「参加あり」のほうが「参加なし」よりも、新型コロナに特徴的な症状の出現率が高かったとのこと:

<具体的な結果の概要>
 https://healthpolicyhealthecon.com/2020/12/06/go-to-travel-and-covid19/

 過去1ヶ月以内の有症率:
発熱(Go Toトラベル利用者4.8% vs. 非利用者3.7%; オッズ比 1.9)、咽頭痛 (20.0% vs. 11.3%; オッズ比 2.1)、咳 (19.2% vs. 11.2%; オッズ比 2.0)、頭痛(29.4% vs. 25.5%; オッズ比 1.3)、嗅覚/味覚異常 (2.6% vs. 1.7%; オッズ比 2.0)
 *グラフへのリンクはこちら

 ただ、ここでよく考えないといけないことは、比較した2つの群は、旅行以外の生活様式について、以下の偏りが起こっているのではないかという疑いがあります:

 Go Toトラベル利用者 ⇒ 普通に外出している方が多い
 Go Toトラベル非利用者  ⇒ ほとんど外出していない巣ごもり状態の方が相当数いる。

 すなわち、もしGo Toトラベル非利用者の中に、まったく外出をしていない巣ごもり状態の方々が相当数いるとすると、最初から感染(発症)するはずのない方が含まれるので、有症率が低くなるのは当たり前ということになります。普段の生活で、普通に外出をしている方のみを抽出したうえで、利用者/非利用者を抽出したのであればよいと思いますが、今回の調査研究では、非利用者に多くの非外出者が含まれていたことにならないでしょうか。

 そう考えると、今回対象とした疑義言説:「Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに」は事実であったものと評価できますが、本研究発表について査読を受けることなく公表し、「 Go Toトラベル・キャンペーン 」という公共政策により新型コロナ感染症の感染が拡大している(因果関係がある?)かのように公表することは、不正確/ミスリードと言わざるを得ません。

 なお、著者の方々も本研究の限界を、自ら以下のように記述しています;

"本研究の限界としては、① Go To トラベルの利用が直接的に新型コロナ症状の増加につながったという因果関係は断定できない、② Go To トラベルの利用と新型コロナ症状の発生率との間の時系列的関係が不明、③ 新型コロナ症状を持つ人が、必ずしも新型コロナに感染しているわけではない、④ 新型コロナ症状を持つ人が、その原因としてGo To トラベルの利用を思い出しやすい可能性(思い出しバイアス)等が挙げられます。"

 ただ、このように本研究には限界があるとしながらも、以下のようなデータ解釈の結論を述べられております:

"今回の研究では、政策というマクロなレベルでGo Toトラベル事業が日本の新型コロナの感染者数の増加の主な原因であるかは分からないものの、個人レベルではGo Toトラベルを利用している人ほど新型コロナ感染リスクが高いことが明らかになりました。"

<エビデンスチェックから導かれる事実検証の結論>
 以上、本疫学調査研究自体の限界について研究チーム自体も述べておらるものの、さらに根本的なデータ抽出方法に関して明らかに偏りがあり、「Go Toトラベル非利用者」の群のみに全く外出していない巣ごもり状態の市民が相当数含まれるとすると、著者らの「個人レベルではGo Toトラベルを利用している人ほど新型コロナ感染リスクが高い」という結論に関しても疑問符がつくことが、エビデンスチェックにて検証されました。これらの点を総合的に評価すると、「不正確(レベル2):事実に反しているとまでは言えないが、言説の重要な事実関係について科学的根拠に欠けており、不正確な表現がミスリーディングである。」との結論になった。

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

(初稿:2020年12月12日 14:00)

*SFSSファクトチェックの運営方針・判定基準はこちら
*SFSSの組織概要はこちら

<COVID-19リスク低減策に関する補足情報>
 ヒトの移動自体がリスクを高めるというよりも、個々の新型コロナ感染症リスク低減策の甘さが感染拡大の主要な原因であることは明らかです。市民がみなマスクもせず外出しているなら、移動がリスクになりますが・・ソーシャルディスタンスがとれない業務に従事されている方々でも、感染対策ができていれば感染しないんです(ダイヤモンドプリンセス号での自衛隊看護部隊がそうでした)。

 いつまで日本の観光産業/交通関連産業の方々(約900万人)を疲弊させるつもりでしょうか?
 メディア報道にかかわる方々は、叩く場所を完全に間違えています。

 医療崩壊ばかりを報道して不安を煽っても、まじめな市民(非感染者)が外出自粛するだけで、経済はどんどん死んでしまいますが、他方、ふまじめな市民(感染源)が都市部をうろつくかぎり、感染拡大は止まりません。

 これら感染予防策ができていない感染源情報(クラスター)を特定して公開し、濃厚接触者を含めて迅速に隔離すること。非感染者の市民むけには感染リスク低減策をしっかり施したうえで、経済をしっかり回すこと(GoToを利用すること)を推奨すべきでしょう。
 非感染者は動いてもよいのです(ここを間違えてはいけない!)

 感染拡大の根本原因を抑えないとパンデミックは止まりません。個々の市民/事業者の新型コロナ感染症リスク低減策が甘いと、いくら経済制限/ロックダウンを繰り返しても、欧米の悲惨な感染状況を見れば、感染抑制効果が一時的・限定的なことは明らかです。欧米はもう、ワクチン接種も含めて集団免疫を目指していますので、集団での感染予防策としては参考になりません。

 そのあたりをブログにまとめましたので、以下でご一読ください:

◎「GO TO」は奏功しているのに・・
 「マスクを外して飛沫を浴びましたよね?」

  BLOGOS 山崎 毅(食の安全と安心) 2020年11月29日
  https://blogos.com/article/500634/