GO TO EAT:感染リスク低減のポイントは・・
~マスクを外したときに飛沫を浴びないこと~

[2020年9月30日水曜日]

 "リスクの伝道師"SFSSの山崎です。毎回、本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月も新型コロナ感染症による世界の死者数がついに100万人を突破した状況にあって、日本では「GO TO トラベル」の対象地域に東京が加わり、「GO TO EAT・キャンペーン」も始まりましたので、その点を議論したいと思います。なお、世界中でCOVID-19により亡くなられた方々に謹んでお悔やみ申し上げるとともに、治療中の方々に心よりお見舞い申し上げます。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、いまだよい治療薬やワクチンが開発されていないため、その健康リスクはかなり大きいと言わざるを得ない。季節性インフルエンザでも沢山の死者が出るのだから、そこまで恐れる必要はないというご意見もあるが、感染者の死亡率がいまのところ約2%であることを考えても、最善をつくして回避すべきリスクであることは明白だ。もし皆さんの職場でクラスター感染が起こったとして、たとえば従業員100名が感染したうち2名が亡くなったとして、尋常でいられるだろうか?新型コロナは、それくらい大きな健康リスクなのだ。

 志村けんさんが新型コロナで亡くなった訃報をきいて、初めて大半の日本国民がマスク着用をしないといけないと気付いたように、米国のトランプ大統領夫妻の新型コロナ陽性が判明して、やっとホワイトハウスの側近たちもマスク着用を始めた姿がテレビで流れているが、あまりに遅すぎないか?もしこのまま、トランプ大統領が重症化して取り返しのつかないことになれば、「風邪ウイルスに過ぎない」と新型コロナウイルスを軽視していた米国大統領が、まさにその風邪ウイルスに屈したことになるので、アメリカ合衆国としてそのような不名誉な事件は避けないといけないだろう。

 新型コロナ感染症の発生によってわれわれが被るリスクは、健康リスクだけでなく、経済損失リスクも十分考慮しなければならない。もし職場で集団感染が起こったとして、大半の従業員が軽症もしくは無症状だったとしても、事業所は営業停止を免れないだろう。おそらくクラスター感染発覚から最低2週間は事業活動継続不能となるため、これは大きな経済損失リスクだ。COVID-19に感染することは、それくらい大きなリスクであることをイメージしてほしいところだ。

 本ブログで、これまでも何度かご指摘しているところだが、感染リスク低減策がきちんとできていれば、新型コロナ感染症のクラスターは発生していないように見える。たとえば、大手企業でも製造メーカーであれば、テレワーク以外の従業員も相当現場で勤務しているはずだが、大きなクラスターが発生したという話を聞かない。「Go Toトラベルキャンペーン」においても、観光業や公共交通機関の方々や旅行者の皆さんの徹底した感染予防策が奏功し、大規模クラスターに発展したとは聞かない。クラスターが発生しているのは、比較的中小規模の事業所や店舗であり、おそらく感染リスク低減策が甘かったうえに、無症状や軽症の感染者の入場を許してしまったということなのだろう。

 その意味で今回の「Go To EATキャンペーン」に関しても、中小規模の飲食業店舗において感染リスク低減策が徹底できるかどうかが成功のカギとなると考えられる。実際、店舗スタッフがすべきことは、一般市民が行っている「集団予防」を、客と一緒に実行することに過ぎない:

 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防法について」
  食の安全・安心Q&A 番外編

   http://www.nposfss.com/cat3/faq/covid-19.html

 上記ブログのとおり、野田衛先生が提唱された「集団予防」のポイントは以下の3つだ:
   ① 飛沫をあびないこと(飛沫感染防止;マスクも有効)
   ② 手洗いまでは顔をさわらないこと(接触感染防止)
   ③ 消毒薬をうまく使う(アルコール以外も有効利用)

 すなわち、店舗スタッフも客も、ともに「ウイルス飛沫をあびない・さわらない」という環境をつくればよいわけだが、そのために店舗側はどうすればよいのだろうか。

店舗スタッフがなすべきこと

 まずは店舗スタッフ自身が、店舗内外でマスク着用・手洗い・消毒を励行し、客との間にアクリルボードを設置するなどして、自らが「飛沫をあびない・さわらない」ことにより、感染予防に十分注意することが大前提だ。実際は、店舗スタッフが自らを新型コロナから守るための予防策が、同時に客の感染リスクも下げること(=咳エチケット)になることを意識するとよいだろう。

 筆者の実体験だが、人気店のメニューをテイクアウトで電話注文し、ピックアップに行った際に、店舗スタッフがマスクすらしていなかったのにはガッカリした。ご自身が無症状なので安心されているのかもしれないが、マスクをしている客に対して、店舗スタッフがマスクなしで会話をする(=飛沫を飛ばす)のは、いまだ毎日新規感染者数が報じられているときに、やってはいけないことだろう。

 なおもし万が一、店舗スタッフに新型コロナに特徴的な症状が出たら、即マネージャーに相談して、PCR検査などのクライシスマネジメントに移行し、自己隔離しなければならないのは当然だ。店舗スタッフの頻繁な手洗い/店舗内の環境消毒については、別に新型コロナの接触感染防止策に限らず、飲食業者なら一般衛生管理としてできているはずだ。

 また、店舗内の飛沫感染防止策で重要なのは、換気とソーシャルディスタンス対応であろう。店舗スタッフでできることには限界があるが、たとえば・・できるだけオープンテラス席やカウンター席を増やす、ドアや窓をできるだけ開放して暖簾やカーテンで部屋を仕切る、各テーブル席の間隔を最低1.5m開ける、客と客の間にパティション/プランター/アクリルボードを設置する、などだ。感覚的には、「店舗内の空間が非常に広くなったなぁ・・」と感じられるかどうかだろう(天井が高い、風通しがよい、密閉空間が少ない、などなど)。

 換気対策に関しては、「ただいま換気中」と掲示するだけでなく、できるだけ客にその対策内容が具体的にわかるように、店舗入り口や店舗のホームページ/SNSページなどに掲載するとよいだろう。たとえば、「換気について:30分おきに空気の入れ替えを実施中」、「調理の煙を排出する換気システム作動中」、「正面扉と換気窓を常時3か所開放中」などだろうか。

客にお願いすべきこと(客が自らを守るためにすべきこと)

 まず、客が入店する際に検温する店舗も多いようだが、それは不要と考える。なぜなら、新型コロナ感染症は症状が出る2日前がウイルス伝搬のピークと言われており、検温では無症状感染者の入店を拒絶できないからだ。しかも、新型コロナ以外のほかの疾病でも発熱することはあるため、検温して熱が高いというだけで入店拒否するのも困難だろう。

 それよりも重要なことは、客の中に無症状感染者がいてもおかしくないため、お店の入り口にはっきりと、「新型コロナ対応に関するお客様へのお願い:入店の際にはマスク着用+手指の消毒が義務となります。また店内においても、飲食の時間以外はマスク着用での会話をお願いしております。」などと大きく掲示するとよいだろう。

 「いやいや、個々のテーブルや個室に家族のみで座っている場合は、マスクが不要では?」と思われるかもしれないが、店舗スタッフが注文をとったり、食事を運んだりするのだから、マスクなしで会話するのは、やはり感染リスクが一段上がることになる。またお酒が入って大声になってしまう客がいると、隣のテーブルの客やトイレなどの共用施設にまで、飛沫が飛ぶ可能性も否定できないだろう。

 客が常時守ってくれるかどうかは別にして、「飲食以外の会話のときは、マスク着用をしないと飛沫感染リスクが高くなる」ということを、できるだけ多くの客に正しく認識してもらうことが大切だ。個々の客が飛沫感染防止策を徹底すれば、お店でのクラスター感染が発生する確率はゼロに近づくはずなので、注意喚起のサインなどにより、地道なリスクコミュニケーションを続けることが肝要だろう。


 今回の「Go To EATキャンペーン」では、インターネット特設サイトからの飲食店予約により、ディナーで1名につき1,000円分、ランチで1名につき500円分の次回使用可能なポイントが付与されるとのこと。最大10名までの予約ができるらしく、その場合には幹事さんに1,000円✖10名=1万円分のポイントがつくとのことなので、たとえば会社の同僚が10名集まって飲み会というようなケースが多くなると、容易に集団感染のリスク大になりそうだ。できれば、このようなポイント付与も最大5名くらいに変更できないものか。

 また、一度の予約で2時間滞在がよくあるケースだと思うが、1時間の予約も受けいれて、感染リスクを下げると同時に客の回転数を上げるほうがよいのではないか。その場合に、客がドギーバッグをしやすいように、お持ち帰り用の簡易コンテナをご用意しておくと、食品ロス削減の観点からもよいだろう。ただし、テイクアウトに堪えないような生食メニューに関しては、食品衛生の観点からお持ち帰りをお断りすべきだし、客の自己責任のもとにお持ち帰りされる場合も、コンテナ表面に「帰宅後すぐにお召し上がりください」、「お持ち帰り食品の衛生管理については、お客様の自己責任のもとでお願いいたします(店長)」などと表示しておくことをお薦めしたい。

 新型コロナの感染形態は空気感染ではない。飛沫感染と接触感染がメインであることがわかっている。だからこそ「フィジカルディスタンス」のみが感染症リスク低減策ではなく、「Go To キャンペーン」自体を実施することに問題はないだろう。リスク低減策の基本として、マスク・手洗い・消毒の3つをしっかりやれば、感染リスクは無視できるまで下げられるはずだが、「Go To キャンペーン」は上述の通り、サービスの最中にマスクを外す瞬間が必ずあるため、マスク・手洗い・消毒の基本対策が甘いと、残念ながら危ない橋を渡っていることになる。

 新型コロナ感染症リスクの大小を決める主な要因は、移動/旅行や経済活動(外食やイベントなども)ではなく、あくまで外出時マスク着用・頻繁な手洗い/消毒など、個人/事業者の感染症リスク低減策の良しあしに依存するものだと理解していただきたい。このような市民のリスクリテラシーやそれに多大な影響を与えるメディアのリスコミが改善してこない限り、新型コロナ感染症は抑制されないだけでなく、われわれの生きる力を支えている世界の経済活動も復活してこないだろう。

 以上、今回のブログでは「Go To EATキャンペーン」における新型コロナ感染リスク低減策について議論しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(参加費は1回3,000円です)。

 ◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2020(4回シリーズ)開催案内
   http://www.nposfss.com/riscom2020/

 ◎SFSS食の安全と安心フォーラム第19回(7/26:オンライン)開催速報
  『飲食業にとっての新型コロナ時代のリスク低減策
   ~食品衛生ならびに法規制上のリスクにどう対処する~』

   http://www.nposfss.com/cat9/forum19_sokuho.html

 ◎SFSSリスコミ動画   『新型コロナウイルスの予防法(野田衛先生)』
   ・飲食店での新型コロナウイルス対策

   https://www.youtube.com/watch?v=gUolQhHR1_4&t=1058s

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com