組織の信頼回復に必要な姿勢とは
~迅速な謝罪会見(潔さ)と誠実性(隠蔽しないこと)~

[理事長雑感2022年9月号]

 "リスクの伝道師"SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について毎回議論をしておりますが、今回は消費者市民の「食の安心」にとっても重要な必要条件となる「組織の信頼」について議論したいと思います。まずは、京都府宇治市で起きたO157による食中毒事故の記事を以下でご一読いただきたいが、この事故で亡くなられた方に謹んでお悔やみ申し上げるとともに、食中毒被害に遭われた患者の皆様にもお見舞いを申し上げたい:

◎京都・宇治のO157食中毒死「レアステーキ」と主張する社長が謝罪、説明した内容は
 京都新聞 2022年9月17日

 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/882179

 死亡事故にまで発展してしまった食中毒事故ということで、メディアでも大きく採り上げられたわけだが、同様の病原微生物による食中毒事故は1年中、全国いたるところで起こっており、たくさんの健康被害が発生しているのが実情だ。健康被害がおこっているのだから、これは明らかに「食の安全」の問題であり、本事業者の加熱調理や衛生管理のやり方に、何かしらの欠陥があったのではないかと疑われるところだ。

 ニュースの記事内容やコメント欄を読んでも、加熱調理方法などを除いて、HACCPをきちんとやっていたのかなどの詳細が記載されていないので、食品安全を担保する仕組みのどこに問題があったのかという原因究明がされたのか、その後どのような再発防止策が講じられたのかは不明だ。

 実際、食中毒による健康被害が報告されてから、営業停止5日間という行政処分がされていたということなので、保健所の立ち入り調査などで、原因究明と再発防止策は十分とられたのちに、営業再開していたものと想像する。結局、患者さんのうちの一人がお亡くなりになったことで、同社が運営する全7店舗を営業自粛することとなったようだが、社長が取材にこたえた「信頼を裏切る結果になり、深くおわびします」という新聞紙上のコメントだけでは不十分との印象だ。

 「信頼」は安全でおいしい食品をずっと提供しさえすれば築かれるものではなく、顧客が必要とするリスク情報をタイムリーに伝えるなど、顧客に対しての迅速な応対や誠実さも「信頼」の重要な要件なのだ。とくに今回のような食中毒事故など、お店を利用する顧客全員に影響するようなリスク情報ほど、謝罪会見を迅速に開いてASAPで詳らかにお伝えするべきだ。

 原因究明が不十分なうちから不正確な情報だけでは会見などできないとして謝罪会見が遅れると、さらに次の被害者が増え続ける可能性もある。それよりも自社製品で実害が出ていることが判明した時点で、いち早く謝罪会見をし、誠実に質問に答える姿勢のほうが、はるかに潔く見えるし信頼にもつながるのだ。もたもたしていると、「謝罪が遅い!」「情報を隠蔽しているのか?」などとご指摘を受けて、SNSで拡散されると、あっというまに「信頼」が失墜していくだろう。「信頼」が失墜してしまうと、「安心」=「安全」×「信頼」の方程式により、「食の安心」が脅かされるため、いくら安全でおいしい食品を提供しても売れなくなる。

 この組織の信頼回復に必要とされる情報発信の姿勢については、食の安全・安心だけに限った話ではなく、どんな組織においてもその構成員が不祥事を起こした際に必要とされる広報対応術と言えるだろう。企業や行政機関においても、所属する従業員/職員が犯罪を犯したり、交通事故を起こしてしまった場合には、たとえ死亡事故案件でなくとも迅速な謝罪会見が必要と考える。

 従業員/職員個人が業務以外で起こした不祥事なのだから、事実関係もよくわからない中で、組織としての謝罪会見は無理だと思われるかもしれないが、明らかに従業員/職員の監督不行き届きが原因で、社会に対して大きな迷惑をかけているのだから、迅速に謝罪するとともに、徹底した原因究明により事実関係を報告し、再発防止策を発表すべきだろう。

 迅速な謝罪会見をしない ➡ 組織に否はないと考えているのか?潔さが感じられない。

 誠実に情報公開をしない ➡ 従業員/職員自身は会見できないが、組織も沈黙するのか?不都合な情報を隠蔽しているのか?従業員/職員の監督・教育はしていなかったのか?今後も従業員/職員が同じような事件を起こすかもしれないが、どうやって再発防止をするのか?

 9月18日、北海道函館でのゴーカート体験イベントにおいて、子どもの運転するカートが暴走し、並んでいた来場者に突っ込んで3人が負傷、そのうち2歳児が死亡という痛ましい事故が発生した。メディアも翌朝の朝刊において主催者のホテル/自動車販売会社の実名とともに、本事故について報じているが、主催者は迅速に謝罪会見を開いたのだろうか。

 当然の事ながら暴走したカートの運転をしていた子どもにまったく否はなく、走行路の両脇にタイヤを積み重ねるなど、万が一カートが暴走しても、走行路より外に飛び出ないような危機管理対策ができていれば、この事故は防止できたはずなので、主催者側に否があったことは明らかだ。このようなケースでは、いかに迅速に謝罪会見を開き、「われわれの不徳のいたすところで痛恨の極みだ」として、被害者に対する謝罪の意をまずは伝えることが大事だ。そのうえで、事故原因にかかわる事実を詳らかに公開する誠実さと潔さが重要であり、不都合な情報を隠蔽するのはNGだ。

 もちろん危機管理対策を怠ったことで人身事故が発生しており、主催者が信頼を回復するのは非常に厳しい状況であることに変わりはない。しかし、迅速な謝罪会見や誠実な情報公開により、原因究明と再発防止策ができそうだと市民が判断してくれれば、顧客からの信頼が徐々に回復してくる可能性はあると考えてよいだろう。

 いま世論調査において、自民党の旧統一教会対応のあいまいさに対して国民からの信頼が急激に低下しているようだが、これも個々の議員がなぜ迅速な謝罪会見を開いて、旧統一教会がらみの過去の政治活動やイベント参加などについて、誠実に情報公開をして謝罪しなかったのか。選挙活動において特定の宗教団体の支援を受けただけなら、もちろん否はないと言えるのだろうが、霊感商法など高額の寄付を信者に要求していた宗教団体の支援を受けていたという事実は、十分謝罪会見に値するのではないか(旧統一教会とは知らなかったでは済まない?)。

 「今後、旧統一教会との関係は一切断つ」、すなわち再発防止策を本気で宣言するのであれば、まずは過去の過ちについて原因究明をして謝罪するのが筋だと考える国民が多いからこそ、自民党議員への信頼が低下しているのではないか。謝罪会見がないということは、過去の否について沈黙していれば、国民も許してくれるのではないかという甘い期待の裏返しともとれるし、潔さもなければ誠実さも感じられない。そうなると議員個人の信頼低下だけでなく、自民党という組織の信頼失墜にもつながっていることが、世論調査の結果に反映しているように思う。

 組織内で不祥事が起きてしまったときには、まず原因究明した事実を公開したうえで、真摯に謝罪する姿勢が重要だ。筆者は過去にも、このリスコミ手法を「ハラキリ・コミュニケーション」と呼んで解説しているので、以下のブログをご一読いただきたい:

 ◎ハラキリ・コミュニケーション ~日本文化に合ったリスコミとは~
  SFSS理事長雑感[2015年3月16日]

  http://www.nposfss.com/blog/harakiri.html

 以上、今回は組織の信頼回復に必要な姿勢として、迅速な謝罪会見と誠実さ・潔さの重要性について考察しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。なお、当日ご欠席でも事前参加登録をしておけば、後日、参加登録者とSFSS会員限定のアーカイブ動画が視聴可能ですので、参加登録をご検討ください:

◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム(4回シリーズ)
   第4回:『消費者はゲノム編集食品のリスクを受容するか』(10/30、Zoom) 開催案内

  http://www.nposfss.com/riscom2022/index.html

◎SFSS食の安全と安心フォーラム第23回(7/17、Zoom) 開催速報
 『食品製造における微生物制御の現状と今後の展望』

  http://www.nposfss.com/cat9/sfss_forum23.html

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com