食のリスクコミュニケーション・フォーラム2019(4回シリーズ)活動報告

2019年4月から10月にかけて食のリスクコミュニケーションを テーマとしたフォーラムを4回シリーズで開催いたしました。
毎回50名~80名程のご参加があり、3人の専門家より、 それぞれのテーマに沿ったご講演をいただいた後、 パネルディスカッションでは会場の参加者からの ご質問に対して活発な意見交換がなされました。

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2019
【テーマ】 『消費者市民の安全・安心につながる食のリスコミとは』

【開催日程】
 第1回 2019年4月21日(日)13:00~17:50
 第2回 2019年6月23日(日)13:00~17:50
 第3回 2019年8月25日(日)13:00~17:50
 第4回 2019年10月27日(日)13:00~17:50

【開催場所】東京大学農学部フードサイエンス棟 中島董一郎記念ホール
【主 催】NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)
【後 援】消費者庁、東京大学大学院農学生命科学研究科食の安全研究センター
【協 賛】一般社団法人食品品質プロフェッショナルズ、日本生活協同組合連合会
【参加費】3,000円/回
    *SFSS会員、後援団体関係者、メディア関係者は参加費無料

<第1回> 2019年4月21日(日)『食の放射能汚染のリスコミのあり方 ~風評被害にどう立ち向かう?』

【プログラム】

13:00~14:00 『住民とのリスクコミュニケーション:専門知見の伝え方』
        小林 智之(日本学術振興会・福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座)
14:00~15:00 『原子力事故後の風評被害のメカニズムと8 年目の対策』
        関谷 直也(東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター / 福島大学食農学類 )
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『食品中の放射能汚染の現状は?検査結果を確認しよう。』
        田野井 慶太朗(東京大学 大学院農学生命科学研究科)
16:20~17:50  パネルディスカッション
       『食の放射能汚染のリスコミのあり方、風評被害にどう立ち向かうか』
        パネリスト:各講師、石川 一(消費者庁 消費者安全課)
        進行:山崎 毅(SFSS)
18:00~19:30 懇親会

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小林智之先生

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関谷直也先生

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田野井慶太朗先生

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石川一氏

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*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①小林 智之(日本学術振興会・福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座)
 『住民とのリスクコミュニケーション:専門知見の伝え方』

人間のリスク認知は、ときおり極めてデタラメである。たとえば、とある食品添加物が危ないかどうかは、実際の毒性の強さよりも、その物質名の発音のしにくさによって見積もられる。そんなデタラメなリスク認知は、デタラメなくせに、強力に人々の行動を規定する。そのため、多くの専門家にとって素人のリスク認知は捉えがたく悩ましい。専門家と素人のリスクコミュニケーションでは、安全性の証明と安心感の提供は独立した努力であるべきだろう。本講演では、リスク認知について社会心理学の知見を紹介しつつ、発表者自身の住民とのコミュニケーションの経験を交えながら、食の放射能汚染のリスクコミュニケーションのあり方について考察する。

小林先生講演レジュメ/PDF:1.77MB

② 関谷 直也(東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター/福島大学食農学類)
 『原子力事故後の風評被害のメカニズムと8年目の対策』

風評被害とは、ある社会問題(事件・事故・環境汚染・災害・不況)が報道されることによって、本来「安全」とされるもの(食品・商品・土地・企業)を人々が危険視し、消費、観光、取引をやめることなどによって引き起こされる経済的被害を指す。東日本大震災から8 年が経過する中で、放射線量は低下し、林産品や野生の動物を除いては農産物から放射性物質が基準値以上の放射性物質が検出されることも極めて稀になってきた。米も、毎年、約1000 万袋の全量全袋調査が行われ、2015 年以降は100Bq/kg 以上が検出されるものはなくなった。直後は放射性物質汚染の被害(実害)か風評被害かなどがないまぜになったものであったが、現在は安全と確認された商品の経済被害の問題となってきた。ここで改めて「風評被害」という言葉を整理してみたい。

③ 田野井 慶太朗(東京大学 大学院農学生命科学研究科)
 『食品中の放射能汚染の現状は?検査結果を確認しよう。』

最近は都内でも福島県産の農産物を見ることは稀ではなくなってきました。「流通しているのだからそれら農産物は大丈夫なのでしょ。」と考える方が多いと思います。ここで今一度、検査結果を確認することで、あらためて流通食品の安全性を再確認したいと思います。農産物の風評被害について冷静に議論するには、実際のデータを基にしたevidence(証拠と訳せるでしょうか)が必要です。風評被害には、しっかりとしたevidence とともに立ち向っていただきたいと思います。

田野井先生講演レジュメ/PDF:3.26MB

④ 石川 一(消費者庁 消費者安全課)

石川氏講演レジュメ/PDF:509KB

*参加者アンケート集計結果(PDF/733KB)


<第2回> 2019年6月23日(日)『食品添加物のリスコミのあり方 ~不安を煽るフェイクニュースにどう対抗する?』

【プログラム】

13:00~14:00 『やってみよう! 食品添加物のリスクコミュニケーション』
        瀬古 博子(消費生活アドバイザー・FOOCOM)
14:00~15:00 『消費者における食品添加物リスクの捉え方』
        大瀧 直子(SFSS・食品安全リスクコミュニケーター)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20  『なぜ不安を煽るのか、その原因を知ってから対応を考えよう!』
        西島 基弘(実践女子大学 名誉教授)
16:20~17:50 パネルディスカッション
         『食品添加物のリスコミのあり方 ~不安を煽るフェイクニュースにどう対抗するか』
        進行:山崎 毅(SFSS)、パネラー:各講師
18:00~19:30 懇親会

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瀬古博子先生

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大瀧直子先生

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西島基弘先生

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*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①瀬古 博子(消費生活アドバイザー・FOOCOM)
『やってみよう! 食品添加物のリスクコミュニケーション』

「消費者は食品添加物を理解していない」とよく言われる。食品添加物への不安の原因は、消費者の理 解不足なのか。不安をあおる情報は、日々メディアやネットを賑わせており、一度打ち消しても再生産され続けている。それに対して、どのような対応策が打ち出されているか。それらは有効なのか。一方で、リスクコミュニケーションとは、不安解消のために行う、一方的な「説得」ではありえない。リスクの理解に役立つリスクコミュニケーションのあり方について、考えてみたい。

瀬古先生講演レジュメ/PDF:1.25MB

②大瀧 直子(SFSS・食品安全リスクコミュニケーター)
『消費者における食品添加物リスクの捉え方』

消費者の食品の合理的選択のためには食品安全情報を理解することが必要である。リスク分析の三要素といわれるリスクコミュニケーションには、それぞれのステークホルダーが、つまり消費者も含めて、食品安全のリスクの考え方を理解していることが前提にある。「リスク」の理解が不十分なため、リ スクと聞くとその大小に関わらず危険なものと捉え、避けようとする傾向が強い。リスクが小さいにも関わらず、食品添加物、残留農薬、放射性物質、遺伝子組換え作物等は過大に認識され、リスクが大きいにも関わらず微生物汚染は過小に認識される。食品添加物について、消費者、調理師専門学校生等への情報提供の事例を紹介し、今後の有効なリスクコミュニケーションのあり方について考えていきたい。

大瀧先生講演レジュメ/PDF:491KB

③西島 基弘(実践女子大学 名誉教授)
『なぜ不安を煽るのか、その原因を知ってから対応を考えよう!』

食糧事情が比較的潤沢になるに伴い、食品の安全性を問題とする消費者運動が盛んになりました。食品添加物に関する管轄が厚生省になり、安全性が確保されないものは削除し、食品添加物公定書が発刊されました。現在、食品添加物に関しては、食品安全委員会が安全性を確認した物について、厚生労働省が有効性等を確認し、規格や基準値を定めて食品添加物を許可しています。しかし、現在も依然として不安を持っている人達がいます。その原因の一つに、科学的でないことを訂正しない官庁や公的機関が行っている答えを誘導しているアンケート調査なども間接的に不安を煽っているのではないかと考えます。最近でも週刊誌や新聞等で、自称専門家たちが、根拠の無いことをコメントし、それを検証することも無く書きたてるマスコミの人達もいます。さらに、書店に行くと専門家の書いた本はほとんど探すことが出来ず、根拠の無いことや量のことを無視した書きぶりで不安を煽る本しか置いていないのが現状です。消費者の誤解を解消する最も早道は、学校教育なのかもしれません。

西島先生講演レジュメ/PDF:692KB

*参加者アンケート集計結果(PDF/753KB)


<第3回> 2019年8月25日(日)『メディアからの食のリスコミのあり方~市民のリスク誤認をどう解消する?』

【プログラム】

13:00~14:00 『メディアが広げる誤情報 課題は記者のリテラシー向上?』
        平沢 裕子(産経新聞)
14:00~15:00 『「伝える」から「伝わる」へ ~行動変容を目指す情報プレゼンの極意、教えます』
        市川 衛(NHK)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20  『なぜ科学者は市民に負けるのかーメディア・バイアスの実態とその対処法』
        小島 正美(元毎日新聞)
16:20~17:50 パネルディスカッション
         『メディアからの食のリスコミのあり方~市民のリスク誤認をどう解消する?』
        進行:山崎 毅(SFSS)、パネラー:各講師
18:00~19:30 懇親会

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平沢裕子先生

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市川衛先生

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小島正美先生

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*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①平沢 裕子(産経新聞)
『メディアが広げる誤情報 課題は記者のリテラシー向上?』

フェイクニュースは、何らかの意図を持って作られた嘘のニュースだが、誤情報はそうとは限らない。書いた記者はまじめに取材し、デスクも内容が間違っていることを理解できないから記事として掲載されるし、誤情報とは思わないからいい記事が書けたと思っていることも多い。その結果、風評被害で泣く人がいても、自分が書いた記事が悪いとは思ってもいないだろう。しかし、SNSが発達し、誰でも情報の発信者となれる今、状況は変わりつつある。日本で起きた風評被害の事例を検討しつつ、食のリテラシー向上のためにこれから何をすればいいのか考えたい。

平沢先生講演レジュメ/PDF:2.68MB

②市川 衛(NHK)
『「伝える」から「伝わる」へ ~行動変容を目指す情報プレゼンの極意、教えます』

SNS 上の医療・健康情報に関して、投稿された記事の「数」自体は根拠に基づいた適切なものが大部分にもかかわらず、読まれ拡散されやすいのは圧倒的に「誤解を生む」もののほうである、ということが複数の研究で示されています。SNS・ネット時代の今後、情報発信において論点とすべきは「どんな情報を『伝える』か」から一歩進んで「どうすれば『伝わる』のか」、さらに、「どうすれば情報の受け手にシェアという『行動』を起こしてもらえるのか?という点に変わっていくのかもしれません。情報流通のツールが多様化し続ける今後の発信の在り方について考えます。

市川先生講演レジュメ/PDF:2.14MB

③小島 正美(元毎日新聞)
『なぜ科学者は市民に負けるのかーメディア・バイアスの実態とその対処法』

なぜ、新聞やテレビ、週刊誌の記事、ニュースはゆがむのか。なぜ、メディアは多数のまっとうな科学者の声を読者・視聴者に届けようとしないのか。なぜ、メディアは非科学的な情報を流すのか。なぜ、メディアは間違った報道を訂正しようとしないのか。子宮頸がんワクチンや遺伝子組み換え作物、ゲノム編集食品、食品添加物などの事例を基にメディアがバイアスに満ちた情報を流す背景、からくりに迫る。メディアが作り出すニュースの構図は過去 50 年間変わっていない。中高年しか読まなくなった新聞の信頼性を取り戻すために、いま何をすべきか。読みたい新聞とはどういうものかを考えてみる。

小島先生講演レジュメ/PDF:2.32MB

*参加者アンケート集計結果(PDF/709KB)


<第4回> 2019年10月27日(日)『食品衛生微生物のリスコミのあり方 ~消費者のリスクリテラシー向上をどう支援?』

【プログラム】

13:00~14:00 『微生物も一所懸命に生きている -もし貴方がO157だったら?』
        一色 賢司(日本食品分析センター)
14:00~15:00 『牛乳は冷蔵庫に入れたら安全か? -汚染菌の管理ポイント』
        上門 英明(株式会社明治)
15:00~15:20 休 憩
15:20~16:20  『食品のリスクマネージメントにおける課題~消費者意識との乖離やサスティナビリティ~』
        五十君 靜信(東京農業大学)
16:20~17:50 パネルディスカッション
         『食品衛生微生物のリスコミのあり方 ~消費者のリスクリテラシー向上をどう支援?』
        進行:山崎 毅(SFSS)、パネラー:各講師・小出 薫(SFSS)
18:00~19:30 懇親会

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一色賢司先生

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上門英明先生

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五十君靜信先生

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*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①一色 賢司 (日本食品分析センター)
『微生物も一所懸命に生きている -もし貴方が O157 だったら?』

『 微生物も一所懸命に生きている -もし貴方が O157 だったら? 』 疫病神ではなく病原体が、多くの病気の原因であることが立証されたのは,ほんの 150 年前である。ウイルスは半生物であるが,病原体も生物として、たどり着いた所で懸命に生きている。人間の体内や体表にも無数の微生物が共生している。腸は O157 やノロウイルスの増殖の場でもある。病原体対策には消費者の自覚と自律が必要である。家庭内外の食育や学校教育は,食生活に役立っているのであろうか。カイワレ大根騒動では生食は嫌われリンゴも湯通しされたが、やがてユッケや浅漬けの食中毒が起きた。消費者に、O157 などになってサバイバルを考えて貰ってはいかがであろうか。孫氏は 2500 年も前に、「彼も知らず、己も知らずでは」と言っている。

一色先生講演レジュメ/PDF:2.58MB

②上門 英明 (株式会社明治)
『牛乳は冷蔵庫に入れたら安全か? -汚染菌の管理ポイント』

製造技術の進歩や徹底した品質管理によってチルド牛乳の微生物学的品質は向上しましたが、商品は無菌ではありません。一方、家庭内でも開封後に微生物が汚染する機会があります。例えば、開封口に口をつけて飲んだり、手が触れたりすると菌が入り込む可能性がある。冷蔵庫に保管すれば、菌は増えること ができず安全と言えるのか。低温でも増える菌が身の回りで増殖の機会を狙っているかもしれません。数式モデルによる開封後の腐敗日数を予測した事例を紹介しながら、微生物による腐敗のリスクと対応について考えてみたい。

上門先生講演レジュメ/PDF:2.44MB

③五十君 靜信 (東京農業大学)
『食品のリスクマネージメントにおける課題~消費者意識との乖離やサスティナビリティ~』

昨年6月に食品衛生法が改正され、2 年後の 2020 年 6 月には施行される。この改正により、国際整合性のある食品のリスクマネージメント手法が導入される。科学的根拠を求める国際整合性のある考え方に移行してゆくうえで、わが国にこれまで存在していた特有な食に関する考え方、食品を取り扱う企業側とそれを利用する消費書の間の意識の乖離について考えてみたい。特に海外では以前より重要視されているサスティナビリティについて、国内の消費者の認識は希薄であると思われる。

五十君先生講演レジュメ/PDF:306KB

*参加者アンケート集計結果(PDF/632KB)

(文責・写真撮影:miruhana)