食のリスクコミュニケーション・フォーラム2017 (4回シリーズ) 活動報告

2017年4月から10月にかけて食のリスクコミュニケーションをテーマとしたフォーラムを4回シリーズで開催いたしました。
毎回40~50名程のご参加があり、3人の専門家より、それぞれのテーマに沿ったご講演をいただいた後、パネルディスカッションでは会場の参加者からのご質問に対して活発な意見交換がなされました。

食のリスクコミュニケーション・フォーラム2017
【テーマ】『市民の食の安全・安心につながるリスコミとは』

【開催日程】
 第1回 2017年4月23日(日)13:00~17:50
 第2回 2017年6月25日(日)13:00~17:50
 第3回 2017年8月27日(日)13:00~17:50
 第4回 2017年10月22日(日)13:00~17:50

【開催場所】東京大学農学部フードサイエンス棟 中島董一郎記念ホール
【主催】 NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)
【後援】 消費者庁、東京大学大学院農学生命科学研究科食の安全研究センター、一般社団法人食品品質プロフェッショナルズ
【参加費】 3,000円/回
     *SFSS会員、後援団体関係者、メディア関係者は参加費無料

<第1回​>​ 201​7年4月​23日(日)『リスコミ手法のあり方を議論する』

【プログラム】

13:00~14:00 『専門家と一般市民をつなぐリスクコミュニケーションの手法』
        加納 寛之(大阪大学大学院人間科学研究科)
14:00~15:00 『リスクの合理的判断に関わる個人要因:リスクリテラシー、ニューメラシー、批判的思考』
        伊川 美保(京都大学大学院教育学研究科)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『食品安全のリスクアナリシスにおけるリスクコミュニケーションの過程』
        山口 治子(国立医薬品食品衛生研究所)
16:20~17:50 パネルディスカッション
        『市民の食の安全・安心につながるリスコミとは』
          進行:山崎 毅(SFSS)、パネラー:各講師
18:00~19:30 懇親会

risk2017_01_1.jpg risk2017_01_2a.jpg

加納寛之先生


risk2017_01_3a.jpg

伊川美保先生


risk2017_01_4a.jpg

山口治子先生


risk2017_01_5a.jpg

*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

① 加納 寛之(大阪大学大学院人間科学研究科)
『専門家と一般市民をつなぐリスクコミュニケーションの手法』

リスクコミュニケーションの目的は、専門家が科学的知見を伝達しリスクについての理解を促すことだけではなく、異なる意見を持つ人々との間で信頼を醸成することにあると指摘されてきた。しかしながら、専門家と一般市民とではリスクの捉え方が異なるため、議論が噛み合わないことがしばしば見受けられる。こうしたコミュニケーションのすれ違いを解消するためには、リスクという概念が含意する多様な意味と影響を適切に評価し、それらを統合していく作業が大切である。本講演ではリスクに対する様々な価値観をいかに整理・比較するのかという視点から、専門家と一般市民が共通の土台で議論をするための方法論を検討したい。

加納先生講演レジュメ/PDF:232KB

伊川 美保(京都大学大学院教育学研究科)
『リスクの合理的判断に関わる個人要因:リスクリテラシー、ニューメラシー、批判的思考』

様々なリスクに晒される現代社会では、リスクを理解し合理的に判断するためのリスクリテラシーの教育が重要である。しかし、市民は感情に基づいてリスクを知覚する傾向にあり、リスクを合理的に判断することの難しさが懸念される。そこで発表者は、リスク教育に寄与する知見を得るため、リスクの合理的な判断に関わる個人要因について検討した。その結果、リスクの確率的な表記を理解するニューメラシーと、客観的で偏りのない態度を意味する批判的思考態度が、リスクリテラシーの主要な構成要素であると示された。本フォーラムでは、ニューメラシーや批判的思考態度がリスク教育にもたらす効果について、コーヒーや加工肉という身近な食品を題材に報告する。

伊川先生講演レジュメ/PDF:1.4MB

③ 山口 治子(国立医薬品食品衛生研究所)
『食品安全のリスクアナリシスにおけるリスクコミュニケーションの過程』

食の安全は、国際的にも国内的にも、リスクアセスメント、リスクマネジメント、リスクコミュニケーションから成るリスクアナリシスの枠組みに基づいて管理されている。最近、リスクコミュニケーションが様々な文脈において使われているが、マイケルリンデル博士によれば、リスクコミュニケーションはリスク管理行動や制御行動に基盤を置いて進めるべきとする。しかし、それだけではなく、リスクが何か、どの程度なのかといった客観的な評価なしにはリスクコミュニケーションはできない。すなわち、リスクコミュニケーションは、リスクアナリシスの枠組みの一環として進めることが重要であると考える。このような観点から、いくつかのリスク研究の成果を紹介し、お話を進めてさせていただく。

山口先生講演レジュメ/PDF:593KB

*参加者アンケート集計結果(PDF/258KB)


<第2回> 201​7年6月​25日(日)​『​食品衛生上のリスクを議論する​』

【プログラム】

13:00~14:00 『保健所における食品衛生指導上のリスクを考える』
        笈川 和男(元神奈川県食品衛生監視員)
14:00~15:00 『食肉の食品衛生上のリスク』
        相馬 成光(日本ピュアフード株式会社品質保証室)
15:00~15:20  休憩
15:20~16:20 『流通における食品衛生上のリスクの重要性』
        岸 克樹(イオン株式会社品質管理部)
16:20~17:50 パネルディスカッション
        『市民の食の安全・安心につながるリスコミとは』
          進行:山崎 毅(SFSS)、パネラー:各講師
18:00~19:30 懇親会

risk2017_02_1.jpg risk2017_02_2.jpg

笈川和男先生


risk2017_02_3.jpg

相馬成光先生


risk2017_02_4.jpg

岸克樹先生


risk2017_02_5.jpg

*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

① 笈川 和男(元神奈川県食品衛生監視員)
『保健所における食品衛生指導上のリスクを考える』

食の安全は食糧の安全と食品の安全に分けられる。食品の安全を担当する自治体の機関として保健所があり、食品の安全を担保する職員として食品衛生監視員が配属されています。37年間保健所に勤務した者として、行政現場から見た食品衛生指導上のリスクを、次の3事項を中心に説明します。①食品衛生法許可対象外の食品製造業(総菜半製品、焼き海苔など)が多い。自治体によっては条例で定めているが、すべてではない。②隠れた飲食起因の健康障害が多い。多くは有症苦情として扱われる。③生食危険性認識の不足(生食信仰)。

笈川先生講演レジュメ/PDF:3.31MB

②相馬 成光(日本ピュアフード株式会社品質保証室)
『食肉の食品衛生上のリスク』

「焼鳥」はなぜ美味しいのか?という素朴な疑問に対し、人類が食品媒介感染症と戦って蓄積してきた遺伝子の蓄積を感じることができる。食肉を加熱調理してきた長い歴史の中で、最近は生食もしくはそれに近いような調理方法で飲食される事例が増加傾向にある。牛レバー生食禁止の行政措置や牛たたきの規格基準化が進められる一方で、一部地域の食文化として鶏肉の生食も根付いている実態もある。一方で食肉摂取の栄養的メリットは高く、消費者の食肉関連食材やメニューおよび摂取形態も多様化している。見えにくい食肉のリスクに、どのように消費生活を適合させていくのがベターか、話題を提供したい。

相馬先生講演レジュメ/PDF:2.21MB

③ 岸 克樹(イオン株式会社品質管理部)
『流通における食品衛生上のリスクの重要性』

多様な商品を扱う小売のサプライチェーンは広く、長く、複雑である。また、エンドユーザーとの接点である店舗は、リスクコミュニケーションの要衝としての役割を担っている。店舗、バイヤー、物流、さらにはサプライヤー等が一体となって初めて、流通におけるリスクを封じことが出来るといえる。 最新の取組例や東日本大震災でのリスク対応事例を通じて、イオンがどのようにその責任を果たそうとしているかを紹介し、流通業の役割について再発見、再議論するきっかけとしたい。

岸先生講演レジュメ/PDF:2.17MB

*参加者アンケートの集計結果(PDF/254KB)


<第3回> 201​7年8月​27日(日)​『​放射線被ばくのリスクを議論する​』​

【プログラム】

13:00~14:00 『メディアのリスク報道を考える』
        小島 正美(毎日新聞社)
14:00~15:00 『放射線被ばくや食品汚染をめぐる対話の経験』
        多田 順一郎(放射線安全フォーラム)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『リスク・コミュニケーションのパラダイムシフトが必要だ!』
        関澤 純(NPO食品保健科学情報交流協議会 理事長)
16:20~17:50 パネルディスカッション
       『市民の食の安全・安心につながるリスコミとは』
         進行:山崎 毅(SFSS)、パネラー:各講師
18:00~19:30 懇親会

risk2017_03_1.jpg risk2017_03_2.jpg

小島正美先生


risk2017_03_3.jpg

多田順一郎先生


risk2017_03_4.jpg

関澤純先生


risk2017_03_5.jpg risk2017_03_6.jpg

*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

① 小島 正美(毎日新聞社)
 『メディアのリスク報道を考える』

なぜ、いつまでたっても福島産への風評がなくならないのか。その大きな要因のひとつはメディアにある。一般の人々のリスク観は、口コミも含め、すべてメディアの報道に左右される。そのメディアの世界は現在「島宇宙化」していて、正確にリスクを伝えるメディアや記者が偏在している。賛否両論あるにせよ、多数の科学者が抱くリスク観を一般の人に伝えることが重要だと思うが、それができにくいのはなぜなのか。これらの問題は遺伝子組み換え作物や子宮頸がんワクチン、豊洲移転問題にもあてはまる。メディアのリスク報道のあり方を一緒に考えたい。


② 多田 順一郎(放射線安全フォーラム)
 『放射線被ばくや食品汚染をめぐる対話の経験』

福島で放射線に関するアドバイスをお手伝いして6年が経ちました。その間、人々の放射線被ばくや、食品の放射性セシウム汚染に対する不安は、表面上徐々に静まってきたように思えます。しかし、福島産の食品を避ける方や、将来の健康や出産に不安を持つ方が消えた訳ではありません。いわゆるリスコミなど苦手な講演者は、被災地の方々と対話しても、むしろ教えられることの方が多かった気が致します。講演では、そうした「気付き」の中から、放射線影響に関する「専門家」の説明のどこに誤りがあったかや、人々がとらわれている遺伝的影響への不安についてお話しします。

多田先生講演レジュメ/PDF:543KB

多田先生参考資料①​ ​シーベルトの嘆き FBN10月号/PDF:799KB

多田先生参考資料②​ ​Myth of Radiation Effects (for WEBRONZA)/PDF:475KB


③ 関澤 純(NPO食品保健科学情報交流協議会 理事長)
 『リスク・コミュニケーションのパラダイムシフトが必要だ!』

豊洲市場移転を巡り土壌汚染が問題視され、都・専門家会議と市場関係者間の見解相違、都の対応の不適切さにより紛糾している。福島原発事故後6年以上経過し避難長期化で解決困難な状況を生じ、除染・帰還と健康影響の可能性などを巡り、避難住民と行政・専門家間で複雑な対立関係がある。両者は科学的事実の解釈におけるリスク・コミュニケーションの課題と見られがちだが、社会的リスクには科学的側面の他に、生活、営業、関係者の人生設計まで関わる。リスク・コミュニケーションを発信者側の科学情報提供の一環として見るのでなく、リスクを受ける関係者が主人公であり適切な情報提供を大前提に、彼らの問題に正面から向き合い、自主的な意思決定を尊重しつつ問題解決を図るというパラダイムシフトが求められる。

関澤先生講演レジュメ/PDF:957KB

*講演アンケート結果(PDF/284KB)


<第4回> 201​7年10月​22日(日)​『​食品添加物のリスクを議論する​』

【プログラム】

13:00~14:00 『​リスクアナリシスで考える食品添加物の安全性』
         畝山​ 智香子(国立医薬品食品衛生研究所)
14:00~15:00 『​食品業界における食品添加物の意義』
         西山​ 哲郎(食品品質プロフェッショナルズ)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『​食品添加物のリスコミのあり方』
          ​唐木 英明(食の安全・安心財団)
16:20~17:50 パネルディスカッション
        『市民の食の安全・安心につながるリスコミとは』
         進行:山崎 毅(SFSS)、パネラー:各講師
18:00~19:30 懇親会

risk2017_04_1.jpg risk2017_04_2.jpg

畝山智香子先生


risk2017_04_3.jpg

西山哲郎先生


risk2017_04_4.jpg

唐木英明先生


risk2017_04_5.jpg risk2017_04_6.jpg

*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

① 畝山 智香子(国立医薬品食品衛生研究所)
 『リスクアナリシスで考える食品添加物の安全性』

食品の安全性はリスクアナリシスにより確保される-食品安全基本法ができてから十数年経ったが、このことに理解が進み広く国民に浸透しているとは言い難い。食の安全は生産から消費に至るまでの全ての関係者が自分の責任を果たすことにより達成される。それぞれの段階で適切な管理を実行するには、適切な情報が提供されることが必要である。従って食品添加物を巡って巷に流布されている多くの言説のような間違った情報は、食の安全を脅かすものである。リスクアナリシスの意味を再確認しながら改めて食品添加物の安全性について考えてみたい。

畝山先生講演レジュメ/PDF:1.6MB

​② 西山 哲郎(食品品質プロフェッショナルズ)
 『食品業界における食品添加物の意義』

食品に対する不安要因に関する消費者調査では、食品添加物は残留農薬や輸入食品と並んで大きな不安要因とされている。食品添加物を説明することは、消費者だけでなく、食品事業者の社内においても同様の困難に直面する。食品添加物の定義や法律的な規制に始まり、着色料を題材に食品添加物の理解の難しさを紹介させて頂きたい。食品包材と食品添加物への消費者の理解の違いについても述べる。ついで、海外と日本の食品添加物の違いについても若干触れさせて頂く。

西山先生講演レジュメ/PDF:367KB

​③ 唐木 英明(公益財団法人食の安全・安心財団)
 『食品添加物のリスコミのあり方』

​食品添加物について特別のリスコミがあるわけではない。リスコミの目的はリスク管理に対する理解を得ることだが、人間は危険情報に敏感なため、真偽はともかくとして多くの危険情報が流されている食品添加物、残留農薬、放射能、遺伝子組換えなどに不安を感じ、厳しいリスク管理を求める人が多い。他方、自分に利益がある健康食品などは危険情報をあまり気にしない。リスコミの成功には利益情報を適切に伝えることと情報提供者が信頼を得ることが重要という一般原則が食品添加物にも当てはまる。

唐木先生講演レジュメ/PDF:2.7MB

*講演アンケート結果(PDF/297KB)

(文責​:miruhana/写真撮影:​②森嶋 繁徳​、​①③④​miruhana​)