ゲノム編集食品のリスクはどの程度?
~遺伝子組換えも含めて安全性に問題なし~

[2022年1月31日月曜日]

 "リスクの伝道師"SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について、毎回議論をしておりますが、今回は昨年ついに国内でトマト・マダイ・トラフグの上市が実現した「ゲノム編集食品」のリスコミについて解説したいと思います。新たな遺伝子技術を応用した食品に関して、もともと食経験がありませんので、不安を感じる消費者市民がいて当然なのですが、実際そのリスクはどの程度なのでしょうか。我々が2018年に開発したスマート・リスクコミュニケーションを、「ゲノム編集食品」に適用しましたので、以下をご参考としてください。

登場人物:
 <C>:消費者市民、<R>:リスクコミュニケータ(食品安全に関する有識者)

<R> 「ゲノム編集食品」はできれば食べたくない、と考える理由は何でしょうか?
     市民の皆さんの不安要因をお伺いします。

① ゲノム編集では、将来想定外の毒性があらわれるかも?
<C1> 遺伝子を切ったりした食品だと、何が起こるかわからないよね。想定外の毒性があらわれる可能性を否定できないのでは?
<R1> 遺伝子を操作した食品ということでご不安なのは理解できます。
 「ゲノム編集食品」では農作物や魚類などの狙った遺伝子を切ることで、よりよい品種を効率よく作り出すことができますので、「スーパー育種」とか「高速品種改良」などと呼ばれます。すなわち「何が起こるかわからない」、「毒性が出るかもしれない」のは、むしろ遺伝子をランダムに切る従来の品種改良といえます。それでも毒性が発現することがめったにないのは、もし万が一毒性のある品種ができても、その過程で選抜され最終的に選択されないからです。
 よりピンポイントで遺伝子を切る「ゲノム編集食品」では、ターゲットの遺伝子変異により何が起こるのか、研究者にとってはむしろわかりやすいと言ってよいでしょう。

② 人工の農作物より天然の農作物が安全?
<C2> 遺伝子を切った人工の農作物と天然の農作物を比較すると、天然が安全と思うけど・・
<R2> 天然/自然の方が安心というのは、よく理解できます。うちの母親もそう言っています。
 ただ、GM/ゲノム編集など人工的に手を加えた農作物と天然の農作物を比較すると、一見「天然」が安全そうに思えますが、食品安全の専門家にとってはむしろ逆です。GMであれゲノム編集であれ、人工的に品種改良された農作物は、天然の野生種よりむしろ安全性を高め、味や収量も著しく改善しているので、天然より人工の農作物の方が安全性面でも優れているだけでなく、人類の食文化に大きく貢献してきたのは間違いありません。また皆さんが天然と思っている普通の農作物も、実際は従来の品種改良により人工的にその遺伝子に手を加えられたものばかりというのが、まぎれもない事実です。

③ 遺伝子組換え作物(GM)と同じなら安全とはいえない?
<C3> 遺伝子組換え作物(GM)は動物実験で発がん性が報告されたとか、GMを食べる地域では奇形の子どもがよく生まれるといった論文情報をきいたことがある。「ゲノム編集食品」も遺伝子を操作するなら同じではないかと思うから。
<R3> GMの危険性をうったえるビデオやネット記事で不安になられたのは、理解できます。GMを栽培している地域では奇形が多いとか、因果関係はあるんですかね?
 「GMを食べると将来何が起こるかわからない。発がん性や遺伝子毒性が心配だ」、などというフェイクニュースがインターネットや市民公開講座で蔓延しており、これらはすべて科学的根拠のない誤情報です。残念ながら、このような怪しい情報を流布している方々は、自分たちが販売する非遺伝子組換え食品の安全性を強調するために、競合品が危険だと強調する視覚的マーケティングを展開しています。食品安全の専門家は、遺伝子組換え食品/ゲノム編集食品と非遺伝子組み換え食品を厳密にリスク比較した結果、その安全性に差はないと明確に回答しています。
<参考> 食の安全・安心Q&A 「遺伝子組換え作物の安全性について」

④ 環境への悪影響があるのでは?
<C4> 遺伝子組換えやゲノム編集作物は、環境への影響が心配と聞きました。
<R4> たしかにGM/ゲノム編集の農作物や魚が環境に影響を与えるとよくないですね。
 ただ、GMで環境へのリスクが心配される場合にはカルタヘナ法で規制される国内ルールとなっております。もし環境への悪影響が懸念される場合には、国内市場への流通が許可されません。また外部遺伝子を導入しない通常のゲノム編集食品の場合、従来育種の農作物/魚類と同様の法規制下にありますので、カルタヘナ法の規制対象外です。生物多様性への影響がよく指摘されますが、GMやゲノム編集技術による栽培/養殖で、自然界に悪影響を及ぼした例はいまのところないのではないでしょうか。あとSDGsの観点からいうと、むしろ世界的な飢餓/貧困対策にGM/ゲノム編集食品は必須でしょう。

⑤ ゲノム編集ベビーと同様、倫理的に良くないのでは?
<C5> 中国でゲノム編集ベビーが生まれたときに道義的問題が非難されたので、ゲノム編集食品も倫理的によくないんじゃないの?
<R5> 中国でゲノム編集ベビーが生まれたというニュースは確かに衝撃的で、道義的問題が非難されるのも当然と思います。うちの家族も憤慨していました。
 ただし、それはヒトの遺伝子を操作することで、もし次世代の子供に悪影響が起ったとしてもその新たな生命を消すわけにはいかないからです。ゲノム編集食品の場合は、遺伝子を切ったことで生まれてきた次世代の農作物や魚が好ましくない産物であった場合は、これを選択しなければよいので、倫理的な問題は発生しません。ヒトの遺伝子を操作することと農作物/魚類の遺伝子を操作することは、全く次元の違う議論になると切り分けて考えましょう。

⑥ ゲノム編集食品は国の安全性審査がいらない?
<C6> GMは国による安全性審査に合格しないと市場に出ないのに、「ゲノム編集食品」は安全性審査を受けずに市場に出せるっておかしくないですか?
<R6> GMは市場に出す前に国による安全性審査が義務付けられておりますが、「ゲノム編集食品」は義務付けられていないのは事実です。そう聞くと「ゲノム編集食品」は安全性が評価されていないように聞こえますが、そうではありません。
 国による安全性審査がない理由は、「ゲノム編集食品」の最終産物が、従来育種による農作物や魚と同等だからです。ただし、従来育種でもゲノム編集作物の種子でも、何世代かにわたって継代を重ねることで、アレルゲンなど安全性に問題のある産物が出てこないかどうか、最低限の安全性評価を実施したうえで市場に出ています。その際にゲノム編集のような新技術の場合は、厚生労働省のホームページにリスク評価データが公開されています。

⑦ 「オフターゲット」が起こる可能性がある?
<C7> 「ゲノム編集食品」は狙った場所と違う遺伝子が切れることがあって、「オフターゲット」と呼ぶらしい。それは大丈夫なのかな。
<R7> ゲノム編集を行った際、ごくまれに狙った場所以外のDNA配列が切断され、意図しない変異が生じることを「オフターゲット変異」(もしくは単にオフターゲット)と言い、そういった問題が議論されていることは事実です。そう考えると、たしかに心配ですね?
 ただし、オフターゲット変異が起こりにくいようにしたり、起きていない個体を選んだり、交配過程で取り除いたりして、品種にオフターゲット変異が残る可能性は極めて低いと考えられています。また、同じような変異は自然界や従来の品種改良でも必ず起こっており(ランダムな突然変異誘発なので、ほとんどがオフターゲット?)、食品安全上のリスクは従来の品種改良産物や食品と変わらない、と専門家は評価しています。

⑧ GMやゲノム編集の食品表示は避けるよう知人から教わったから
<C8> 「遺伝子組換え」とか「ゲノム編集」と食品のパッケージに書いてあったら、その食品はできるだけ避けるようにと、友人から教わったのですが・・
<R8> 信頼しているご友人やご家族から避けるように言われると、とりあえず食べない方がよいと思われるのは無理ないですね。「遺伝子組換えはよくわからないので、あえて食べる必要はない」「なんとなく気持ち悪い」などと、漠然とした不安を感じる方々が多いようです。
 しかし、世界のノーベル賞学者たち150数名が「GM作物を利用しないのは馬鹿げている」と、GM反対派に対する抗議キャンペーンを展開していることをご存知でしょうか?彼らが主張するように、従来の品種改良作物とGMは、どちらも遺伝子が変化した最終産物にかわりなく、安全性も問題ない同じ食べ物と科学者が評価する限り、世界の食糧危機や食品ロスを解決する切り札として彼らが支持するのもうなずけるところです。

⑨ 「食べてはいけない・・」などの書籍でも危ないと書いてあった?
<C9> 「食べてはいけない・・」などの人気書籍や週刊誌で「ゲノム編集食品は危険だから避けるべし」って書いてあったんですが・・。
<R9> 「食べてはいけない・・」など食品の裏事情に関する書籍や記事において、GMやゲノム編集食品が危険との不安を煽る内容が多く、消費者のリスク誤認につながっていることは残念です。
 彼らの主張において決定的な誤りは、科学的なリスク評価ができていないことです。すなわちGMやゲノム編集食品においては、通常の農作物とのハザード(危害要因)の違いすら特定されておらず、奇妙な動物実験等の写真だけで消費者の不安を煽る手法は、大きな社会問題です。このような書籍やビデオを制作している方々が自然食品を販売する会社の顧問だったりするのは、おかしくないでしょうか?

 ここでご紹介しました「ゲノム編集食品」のリスクコミュニケーションについては、2月27日(日)の午後に徳島市で開催予定(Zoom配信もあり)のリスコミイベントで、市民の皆さんと議論する予定ですので、ご興味のある方は参加申込みをお願いいたします。

<参加費無料>令和3年度食の安全安心に向けたリスクコミュニケーション
「ホントに安全? ゲノム編集食品」 (ハイブリッド開催)

   開催日:令和4年2月27日(日)午後1時30分から午後4時30分まで
   開催場所:ホテル千秋閣(徳島市幸町3丁目55番地)+オンライン(Zoom会議)
   主催:徳島県、 共催:消費者庁
    *山崎もファシリテータとして登壇予定です。

   https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/kurashi/shokunoanzen/7203544/

 以上、今回のブログでは、「ゲノム編集食品」についてリスクコミュニケーションの在り方を議論しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。

◎SFSS食の安全と安心フォーラム㉒ (2/20、オンライン) 開催案内
  『いまなぜファクトチェックなのか ~食のリスクにかかわる誤情報に立ち向かうために~』

   https://www.nposfss.com/forum22/

◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム2021(4回シリーズ) 開催報告
 ①ゲノム編集食品、②残留農薬、③学校給食、④惣菜の衛生管理

   http://www.nposfss.com/riscom2021/index.html

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com