『食べてはいけない「超加工食品」実名リスト』⇒「フェイクニュース(レベル4)」
~SFSSが週刊新潮記事(2019年1月31日号)をファクトチェック!~

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 昨年も同誌に10週連続で同様の記事が掲載された際に、SFSSではファクトチェックを実施し「不正確(レベル2)」と判定しました(http://www.nposfss.com/cat3/fact/weekly_shincho0524.html)が、今回もまた似たような消費者市民の不安を煽る記事が掲載され、大手食品メーカーの製品名まで実名であげられているので、疑義言説を特定したうえでファクトチェックを実施しました。なお、今回ファクトチェックを実施した対象記事は以下の通りです(前回同様、ネット上に記事自体の掲載はありません):

◎10万人を追跡調査というパリ13大学の論文で「がんリスク」増大判明!
 食べてはいけない「超加工食品」実名リスト
 週刊新潮 2019年1月31日号(1/24発売)p24-p31(ライター/文責者の記載なし)

 https://www.shinchosha.co.jp/shukanshincho/backnumber/20190124/

 昨年の同誌記事をファクトチェックした際にも指摘したところだが、本記事において取材された「専門家」の方々も、食品の安全/安心/リスクの分野で著名な学者/研究者とは言いがたい。消費者の不安を煽るだけの「とんでも本」を出版している"加工食品診断士"やいまだにハーバードを名乗る"ベストセラー医師"と呼ばれる「エセ専門家」であり、意図的にミスリーディングな食のリスク情報を流しているとしたら、これは公衆衛生上の大問題だ。
 本記事において語られている「専門家」のコメントを疑義言説としてピックアップし、ファクトチェックを実施したので以下をご一読いただきたい。なお、SFSSによるファクトチェック運営方針/判定レーティングはこちらをご参照のこと。

<疑義言説>
「超加工食品とはスーパーで売られているパンやインスタント食品のことだ。それらの摂取量が10%増えると、がんの罹患率が12%上昇するという衝撃的なデータ。以下は、そのパリ第13大学の論文を元にして調査した、食べてはいけない商品の実名リストである。」

<ファクトチェック判定> レベル4(フェイクニュース)

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<エビデンスチェック>
 まずはこの週刊新潮記事が引用した、昨年BMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)に出版された問題のパリ第13大学の論文を参照する必要があるだろう。オープンアクセス・ジャーナルのため、以下のサイトで本論文はすべて参照可能だ:

◎Consumption of ultra-processed foods and cancer risk: results from NutriNet-Santé prospective cohort Thibault Fiolet et al. BMJ 2018;360:k322 | doi: 10.1136/bmj.k322
 https://www.bmj.com/content/bmj/360/bmj.k322.full.pdf

 まずこの論文全体を読んでみた最初の印象は、10万人以上が参加した9年間にわたる疫学調査(コホート研究)であることからBMJが採り上げたことは理解できるものの、「超加工食品(ultra-processed food)」という非常に定義があいまいな食品群を多めに摂っていたグループでがん罹患率が高かった(摂取量が10%多いとがん罹患率が12%上昇)との最終結論については「お肉や脂質を摂りすぎている方は発がんリスクが高めだ」「野菜や果物の摂取量が少なめの方はがん発症率が高い」というようなこれまでの知見とどう違うのかといった感じだ。すなわち、「食習慣の乱れ=栄養の偏りがある方はがんの罹患率が高くなる」と世界中の疫学研究者たち(日本の国立がん研究センターもそのひとつ)がこれまで注意喚起してきたことと何ら変わらないということだ。

 食品安全/健康科学情報に関して洞察力の高い「本物の専門家」たちは、当該論文をどう評価しているのだろうか?食の安全・安心財団理事長で東京大学名誉教授の唐木英明先生は、「いわゆるジャンクフードを多量に食べていると、①カロリーオーバー、脂肪分過剰、食塩過剰、食物繊維不足などによりがんが増える可能性が高い。そのほかに、②多くの食品添加物の複合作用の可能性、③加熱処理により発生したアクリルアミドなどの影響、④包装材のビスフェノールAの影響などの可能性があるというものです。週刊新潮さんは例によって論文の一部を都合よく取り上げて騒いでいますね・・」とのコメントを出している。

 また、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長の畝山智香子先生によると、英国の健康情報評価サイトを以下のように2つあげたうえで、「食品分類についても恣意的で曖昧であり妥当性が認められているものではないという認識のようだ」と評している:

・英国の国立健康サービス(NHS)
 Ultra-processed foods linked to cancer(Thursday February 15 2018)

 https://www.nhs.uk/news/cancer/ultra-processed-foods-linked-cancer/

・英国のサイエンス・メディア・センター
 Expert reaction to study looking at highly processed foods and cancer(February 14, 2018)

 http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-looking-at-highly-processed-foods-and-cancer/

 後者のサイエンス・メディア・センターは、ロンドン大学キングスカレッジのトム・サンダース教授のコメントとして、「超加工食品」を多く摂取したグループ(33.3%)は、摂取が比較的少なかったグループ(約18.7%)と比べて、喫煙者が多く(20.2% vs 16.9%)、日常運動量も少なく(24.7 vs 20.9%)、経口避妊薬服用者も多かった(30.8% vs. 22.0%)と指摘している。本当に「超加工食品」の摂取量ががん罹患率に直接影響したとしてよいのだろうか。また論文では、交絡因子や栄養因子に関して調整しても「超加工食品」の高摂取群のがん発症率が有意に高いことに変わりはなかったとしているが、根本的な問題として「超加工食品」を高頻度で食していた方々の栄養の偏りが強く疑われるところだ。

 何が原因でがん発症率が上昇したのか、食品摂取のグループわけがあいまいな本論文の結果では因果関係が不明であり、もっと詳細な食事成分の摂取量を解析する必要があるだろう。本記事でも「食品添加物の蓄積による影響や混合による影響の多くはわかっていない」とコメントしており、14種類の食品添加物等とがん発症の因果関係に関する科学的エビデンスがないことを自白している。すなわち、食品添加物等の種類が多いことががん罹患率上昇の原因という根拠はどこにもないのだ。ある食品成分の毎日の摂取量が多量であることで毒性を発現するのであれば理解できる(「毒か安全かは量で決まる(パラケルススの名言)」 が、食品添加物の種類が多いほど毒性が高くなるという理論はきいたことがない。にもかかわらず、今回の記事では、食品添加物等の種類が多ければ多いほど発がんリスクが高い(?)、という"まったくデタラメな理論"を展開しているように見える。

 われわれが毎日食している一般食品は、何万何千種類の天然物の集合体であり、そのなかには多数の発がん物質もあれば抗発がん物質も存在し、そのバランスをもって当該食品全体の発がんリスクの大小が決まっていると推測される。だから、お肉を摂りすぎると発がんリスクがやや高く、野菜や果物を多く摂ると発がんリスクが相対的に低くなると言われている。だからこそ、食品を加熱調理するとアクリルアミドという発がん物質ができるので「食べてはいけない!」などという方が、タバコを常用したりお酒を多量に飲んだりしているとガッカリするわけだ。食の発がんリスク評価はそれほど単純ではないのだ。

食のリスクは多面的に評価しないと見誤る?!~スタバ:LA裁判所の理不尽な判決に当惑~
 山崎 毅(食の安全と安心)2018.4.21.

 https://blogos.com/article/292129/

 食品成分に多数の発がん物質が含まれるのと比較して、意図的に食品に加えられる食品添加物は安全性データがしっかりそろっているエリート集団であり、今回採り上げられた「14種類の食品添加物等」も食品行政が法規制により規定した使用基準に基づいて食品に添加されている限り、生体への悪影響が発現する可能性は限りなくゼロに近いと考えられる。また、生体影響のない添加物Aと生体影響のない添加物Bを一緒に使っても、相乗作用で生体影響が現れる可能性は極めて低いと食品安全の専門家は指摘している(「混ぜ合わせることで何か起こったらどうするんだ?」という科学的根拠のない主張で不安を煽る方は洞察力に欠ける「エセ専門家」である)。

 普通にいまの日本社会を見渡しても、記事が不健康と名指しした加工食品群により食中毒/健康被害は国内で一切発生していないように見える一方、手作りの外食店・給食施設・仕出し屋・家庭においては食中毒事故が頻発しており、年に数人の死亡事故もあるようだ。また昭和以降、食品市場には加工食品が増えてきたのを受けて、日本人の平均寿命も順調に延びてきたように思うが、今回の記事が指摘した「加工食品の健康リスクのほうが大きい」との見解は、まったく実態を反映しておらず、まともな食品安全の専門家のものとは思えない。

 今回「超加工食品」に特徴的として掲げた「14種類の食品添加物等」とがん発症の因果関係について科学的エビデンスがないにもかかわらず、これら食品添加物等の種類が多い加工食品ほど発がんリスクが高いかのようなワースト商品ランキングを実名入りで公開するとは論外だ。今回実名いりであげられた加工食品を食べたら、がんの発症率が高くなると本気で思っているのか?こんなデマを飛ばして、信用棄損で企業から訴えられてもおかしくないと思うが・・週刊新潮さん、本当に大丈夫か?

<疑義言説に関する事実検証の結論> レベル4(フェイクニュース)
 疑義言説で引用されたパリ13大学の論文情報自体は事実に反していると言えないが、言説であげている「食べてはいけない商品の実名リスト」(発がんリスクが高い加工食品と暗示したこと)については科学的根拠に欠け、事実に反すると同時に、意図的な虚偽の疑いがある(昨年の5月依頼、同様のミスリーディングな記事を販売促進目的で何度も掲載)。本疑義言説により消費者の恐怖や不安を煽ることで当該加工食品の信用を毀損する悪質なフェイクニュースであると評価判定する。

(初稿:2019年1月30日23:30)

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【文責:山崎 毅 info@nposfss.com