食のコミュニケーション円卓会議

市川まりこ

代表 市川まりこ



■「リスクがゼロでないからダメ」では成り立たない暮らし

 日本では、消費者団体と言えば「将来どんなことが起こるかわからない」とか、「何らかのリスクがあるかもしれない」という理由を掲げて、食品添加物や遺伝子組み換え、食品照射といった技術をほとんど否定していることが多い。それだけではない、あえてそれらの技術のメリットに目を向けようともしていない。このことが、本来享受できるはずの消費者の利益を損ねている一因のように思えてならない。つまり、消費者自らが消費者の利益を損ねているということになる。

食のコミュニケーション円卓会議は
 だれでも家に帰れば消費者になるし、専門分野を外れれば一般の人になる、このような考え方のもとに、私は、2006年に「食のコミュニケーション円卓会議」という消費者団体を立ち上げた。思い込みや古い常識にとらわれない、科学的根拠に基づく学びや体験を大切にし、得られた成果を色々な形で社会に発信していくことで、消費者の不利益を少しでも取り払っていきたいと願っている。

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食品照射への素朴な疑問
 私たちは、活動テーマの一つに、食品に放射線をあてて芽止めや殺菌をする食品照射という技術を取り上げてきている。私たちがなぜ食品照射に興味を持ったのかというと、放射線を照射した食品が安全だということは国際的に認められているが、放射線を当てた食品に変な味やにおいがしたら使い物にならないのではないか?という素朴な疑問を持ったからだ。  2007年から活動テーマに取り上げ、数多くの照射食品の官能テストなどを重ね、学会や研究会などで発表してきた。(図1)食品の温度をほとんど上げずに殺菌等の処理ができることから、食品照射には必ず消費者のメリットがあると、私たちは確信している。しかし、残念なことに「食品照射には消費者の立場からのメリットがある」といくらアピールしても私たちの声は未だ届いていない。

日本に昔からある消費者団体がなぜ食品照射に否定的なのか
 日本に昔からある消費者団体は一貫して食品照射に否定的で、消費者にとってのメリットに目を向けていない。さらに、一定の支持を得て端境期に流通している芽止めジャガイモに対しても根強い反対運動があり、今でも芽止めジャガイモを店頭に置かないでという嫌がらせも公然と行われている。
 多くの消費者団体は「核兵器反対!」を掲げ平和を望んでいる。このことには共感できるが、問題なのは、「原子力・原発も許せない」という主張へ短絡していることだ。さらに、原子力や原発に共通している放射線を利用している技術は嫌い!中でも食品へ放射線を照射するなんて嫌だ!と、拒否感をあらわにしている。事業者や行政は、このような反対運動に関わりたくないのか、リスクのある仕事は引き受けたくないのか、腰が引けている。

放射線への忌避感は世界共通
 私は、2013年に上海で開催されたIMRP2013(放射線プロセス国際会合)で、日本における食品照射の現状についてのプレゼンテーションを行った。その時に、韓国や中国などを含めたアジアや欧米でも、食品照射については世界のどの国でも反対運動や放射線への忌避感があることを知った。どの国でも消費者の理解や受け容れには困難を抱えていて、この点で日本だけが特別ではなかった。しかし、諸外国の状況とは異なり、日本では45年前に始まったジャガイモの芽止め照射以外は、改めてリスク評価を行うことも無く、規制を見直すことも無く、食品衛生法で禁止されたままだ。行政関係者をも含めた多くの国民は、「照射食品の安全性に問題があるから法律で禁止している」と思い込んでいるのではないだろうか?

「市民のための公開講座・しゃべり場」
 私たちは、2010年から毎年、食品照射をテーマにした「市民のための公開講座・しゃべり場」を開催している。これまでに、厚労省・農林水産省・食品安全委員会の若手行政官や、安全な食品の提供に役立つ照射技術に期待している事業者や保健所の方々とも率直な意見交換を行ってきた。9回目となった2018年は、「聞かせて!言わせて!食品照射に懸念を持つ・反対する理由」というテーマで消費者団体の方々とも議論を行った。詳細はこちら http://food-entaku.org/koukaikoza.html#spb-column-1  安全で豊かな食費生活に役立つはずの技術が、なぜ日本では使えないのか、食品衛生と消費者利益のあり方をより良い方向へ変えていくために、2019年も「しゃべり場」に集う方々と一緒に考えてみたい。

食品企業・行政は、堂々とアピールしてほしい!
 もし、食品を安全に美味しく食べるために食品照射が有効で、消費者にもメリットがあると確信されたなら、一部の消費者団体や運動家の偏狭な反対意見に振り回されることなく、大多数の真っ当な消費者に向けてその安全性と品質とメリットを堂々とアピールしてほしい。