BSE対策の見直し

東京大学食の安全研究センター
小野寺 節
小野寺 節

2013年4月3日、食品安全委員会から日本の屠畜牛の検査月齢を48カ月齢超に引き上げてもヒトへの健康影響は無視できるとの評価案が公表された。その背景となる最近の公衆衛生上の大きな変化は以下の様である。BSE病原体に汚染した食品を食したことに由来すると考えられる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)は2012年末、世界中で227例が報告されている。しかし、その発生はピークを過ぎて減少しており、これはBSE対策の総合的な効果によるものと考えられている。最も多くのvCJDが発生していた英国においても、1989年以降、特定危険部位の食品への使用を禁止するなどの措置を講じた結果、2000年をピークに患者数は減少しており、これまで1990年以降の出生者からはvCJD患者は確認されていない。
onodera_zu.jpg 一方、BSE対策見直しについて、疫学的観点から様々な分析がなされている。杉浦らのBSEサーベイランスデータに基づいたBSE発生予測では、飼料規制の効果がBSE発生を抑制し、2009年以降に摘発されるBSE症例数は0で、2012年に日本におけるBSEは根絶されるとしている(1)。山本らのBSEサーベイランスデータに基づくシミュレーションでは、1995~2001年度の日本の総感染頭数は最大で乳用牛215頭、肉用牛3頭と推定している(2)。しかし、飼料規制により乳用牛、肉用牛とも最後に感染牛が摘発されるのは2010年度と推定され、その後日本の牛群からBSE感染牛はいなくなると予測している(3)。門平らは、各年毎の摘発可能なBSE症例数を推計した。その結果、2003年がBSE発生のピークと推定し、12頭のBSEが発生し、2015年には0.1頭に減少すると推定している(4)。
BSE検査月齢を変更した際のヒトにおける健康影響に関する評価でもいくつかの学術論文が報告されている。川村らはBSE検査月齢を引き上げることによるヒトへの曝露リスクの変化を検討するため、日本で年間322頭のBSE感染牛が発生するという最悪のケースを想定し、モンテカルロ・シミュレーション法を持いて年間曝露人数及び1食あたりのBSE病原体曝露量を推計した。その結果、全頭検査と21カ月齢以上検査の場合ではほとんど差が認められなかった(5)。杉浦らは、乳用牛、和牛、和牛xホルスタインの交雑種、及びホルスタイン去勢牛について、検査体制と、屠畜牛については0(全頭検査)、21、31、及び41か月齢以上検査とした場合の影響をそれぞれ推計した。屠畜場でのBSE検査の対象月齢を変更した場合、BSE感染牛が検出される確率にほとんど差異がない、あるいは影響はわずかであるとしている。また、死亡牛に対する検査においても、24、31及び41カ月齢を検査対象の最低月齢とした場合も同様に、影響はわずかであるとした(6)。
今後、食品安全委員会におけるパブリックコメント、厚生労働省におけるパブリックコメント、審議会報告等の手続きを経て、国際基準へのより一層の整合化が計られる。

1. Sugiura, K., Kikuchi, E., Onodera, T. Updated prediction for the BSE epidemic in dairy cattle in Japan. Prev. Vet. Med. 89:272-6, 2009.
2. Yamamoto, Y., Tsutsui, T., Nishiguchi, A., Kobayashi, S. Simulation-based estimation of BSE infection in Japan. Prev. Vet. Med. 84:135-51, 2008.
3. Yamamoto, T., Hishida, T., Nishiguchi, A. Future course prediction of the BSE epidemic in Japan using a simulation model. J. Vet. Epidemiol. 15:22-31, 2011.
4. Kadohira, M., Stevenson, M.A., Hogasen, H.R., de Koeijer, A. Quantitative risk assessment for bovine spongiform encephalopathy in Japan. Risk Anal. 32:2198-208, 2012.
5. Kiyohara, K., Hashimoto, S., Kawamura, T., Hamasaki, T., Yamamoto, S., Kaneishi, M., Yoshikawa, Y. Target cattle age of post-slaughter testing for bovine spongiform encephalopathy and infectivity entering the human food chain in Japan. Food Control 21:29-35, 2010.
6. Sugiura, K., Murray, N., Shinoda, N., Onodera, T. Impact of potential changes to the current bovine spongiform encephalopathy for slaughter cattle and fallen stock in Japan. J. Food Prot. 72:1463-7, 2009.