食の安全と安心フォーラムⅦ 「我が国における食物アレルギーのリスク管理と低減化策」

NPO法人食の安全と安心を科学する会 理事・京都大学名誉教授
小川 正

食の安全と安心フォーラムⅦ

2014年2月2日、東京大学農学部フードサイエンス棟中島董一郎記念ホールにおいて標記主題によるフォーラムが開催されました(主催:NPO法人「食の安全と安心を科学する会」・後援:東京大学大学院農学生命科学研究科附属食の安全研究センター)。
この課題が取り上げられた背景は、学校給食において食物アレルギーの児童がアナフィラキシーショックにより亡くなるという悲しい事故が世間で話題になっている反面、一般の人たちにはその実態や問題点、リスクの発生・回避などについて科学的な認識が十分でないとの判断があったからです。
健常者にとっては安全である食品の成分(たんぱく質)が、特定の人にとっては消化管から体内に侵入し、人に備わった生体防御機構の免疫反応の介在によって、生命をも脅かす不都合な反応を引き起こすようになる現象を一般に「食物アレルギー」と定義しています。従って、ここに取り上げられた食の安全に関する「リスク」には、日常話題にしている安全の概念とは少し違う角度からの検討が必要になります。
本フォーラムではアレルギーにおけるリスクに関して正しい理解を得るために、次の五つの分野について専門家を招き講演をして頂きました。①東京大学・食の安全研究センターの足立(中嶋)はるよ先生からは、真の食物アレルギーが抗原・抗体(IgE)反応に基づく免疫疾患であることの科学的な基礎について、②昭和大学医学部小児科学の今井孝成先生からは、臨床医学の立場から医師が見た食物アレルギーの現状およびリスク対策(救急医療としてのエピペンの使用を含めて)について、③近畿大学農学部の森山達哉先生からは、食物アレルギーを原因物質のアレルゲンの分類を通してその多様性や交差性(新規なアレルゲン)とそのリスク対策の必要性について、④杉並区立井草中学校の青山純子先生からは、学校給食の現場における食事提供者としてのリスク管理とリスクの回避策、問題点などについて、⑤わたくし小川からは、食物アレルギー患者のリスク発生の諸原因と行政面からの対策および低アレルギー食品の開発あるいは自己防衛的手段としての抗アレルギー食生活によるリスク低減化策について、基礎から応用に至る幅広い分野を網羅し、科学的基礎研究とエビデンスに基づく解説を通して理解が深められる工夫のある一連の講演がなされました。特に、それぞれの演者にはリスク管理と言う面に重点を置いた解説をして頂きました。
食品成分としてのたんぱく質(アレルゲン)の侵入と「感作」と呼ばれる一連の免疫現象の成立により、体内にIgE抗体の産生が誘導され、肥満細胞を介して惹起されるアレルギー反応に対しては、現在の医学では有効な治療手段がないため、対処療法的に対応するしか方法がなく、リスクの回避は原則、アレルギー惹起食品(成分)の厳密な除去に頼るしかないのが現状です。従って、個々人のアレルギー惹起食品の正確な診断の実施、加工食品・調理などにおけるアレルギー食品の利用・混入に関する厳格な表示とそれを監視しうる選択的高感度検出法の確立、分析法の標準化の必要性などが根本的なリスク回避に必須の対策として提唱されました。一方、重篤なアナフィラキシー患者の発生に関しては、現場でのエピペンの使用の判断とタイミングの重要性について医師からのアドバイスがありました。総合パネル討論会及び感想・意見を総合すると、「専門性が高い内容をわかりやすく説明いただき非常に勉強になった」、「最近話題になっているテーマであるので、とてもありがたい講習でした」、「メディアの教育が必須と強く感じます」、「正確な情報提供を研究者や研究組織は出し続けていくしかないと思います」、「臨床の現場からの視点の話が多く非常によくわかりました」など一般の人々への周知・情報の提供の必要性が指摘され、さらにアレルギーでない人達も知識を共有して、リスク回避に対応する必要性が指摘されました。 なお、フォーラムの概要報告ならびにアンケート結果はSFSSホームページにてご参照ください。

http://www.nposfss.com/cat1/symposium_foodallergy.html