食品添加物の安全性と無添加・不使用 (2021年3月1日)

西島基弘

実践女子大学名誉教授
西島基弘

食品添加物の摂取量
 食品添加物は、医薬品と異なり消費者が意識をしないで摂取するために安全性や有効性、規格など厳しい審査が行われています。無毒性量の概ね1/100程度をADI(一日摂取許容量)とし、その量を基に各食品に分散し、使用基準を設定します。さらに、全国の都道府県・政令指定都市にある衛生研究所や保健所で市販品について常に分析をしており、東京都健康安全研究センターだけでも食品添加物を年間3万件以上検査しています。違反は極めて少なく、違反内容は、表示もれの添加物の検出(表示違反)や輸出国では許可している品目であるが日本では許可をしていない不許可添加物です。さらに、厚生労働省の行っているマーケットバスケット方式による食品添加物の摂取量調査によると大半は、対ADIの1%に満たないのが現状であり、安全性に関しては全く問題ありません。

安全なのになぜ無添加・不使用か
 添加物無添加や不使用が体に良いと考えるのは、一部の消費者が抱く天然ならば安心という妄想です。現在、我々が食べている食品の大半は、原種と比較して遺伝子が組み変わって品種が改良できた食べ物です。それらが安全であるというのは、消費者は納得しています。動植物で毒成分が分かっているものについては、フグやキャッサバ(タピオカの原料)のように毒のある部位を除去、あるいは毒成分を除去して食べています。しかし、野生キノコはいうまでもなく、天然だから安全という根拠は全くなく、自然の動植物には危険なものの方が多いのではないでしょうか。しかし、いつの時代にも食品添加物や農薬などを中心に、根拠もなく危険を煽り、それを商売にしている人達がいます。週刊誌等で低俗なものは、ことさら自称専門家の根拠の無いコメントを書き立てています。また、根拠の無い事柄を危険と煽っているような、フィクションコーナーに置くべき書物しか置いていない書店が多くあります。
 企業のなかには、安全性には関係が無いと知っているのに表向きは"保存料・着色料は使用していません"など、安全性とは関係のないコマーシャルをしているメーカーや販売店があります。それらの企業は裏では、商品の納入業者に対して使用している食品添加物は違反がない様に、厳しく条件を付けています。消費者には分かりにくい行為と思います。

食の安全性に係るアンケート調査は
 官公庁や大学、企業など多くの所で食の安全性に関するアンケート調査をして、ネット上で公開していますが、これもおかしいものが大半です。アンケートの怖さは、アンケートの質問方法や選択肢の文言が、回答を誘導している可能性があるということです。
 テレビなどで、街ゆく人達に対して内容を理解していない人にも"良いと思いますか?""悪いと思いますか"など短絡的に印を付けてもらいその結果を考察もなしに垂れ流ししているものが多く見られます。
 例えば、食品添加物は商品を購入するときに表示を見ますか?について、なかには、しっかり見て、意味もない添加物の数を数えて少ない方を買う人もいるようです。しかし、ほとんどの人は美味しそうか等の見た目や値段、消費期限程度で選ぶのではないでしょうか。スーパーやコンビニに行って何となく商品を選んでいる人を見ても、表示をよく見て買っている人は見たことはありません。
 一度でも表示を見た人の中には、アンケートで、食品を購入するときは表示を見ているという選択肢に印を付ける人がいるのではないでしょうか。
 農林水産省関連のアンケート調査を見ると、農薬に不安を持っている人の率は高い結果が出ています。しかし、アンケートの〇をつける項目に食品添加物の選択肢がないと、その他で気になるものは?という項目に食品添加物と記載する人はいないことからも、結果を誘導していることがよく分かります。

なぜ不安を煽る人がいるのか
 不安を煽る人の共通点は、科学系の学部出身者ではなく、科学の基礎を知らない人のようです。知らない人の強さというのか、間違いを否定されると、専門家は凹みますが、彼らはそのようなことはお構いなし、名が売れるだけで満足しているようにも見えます。
 一つ思い当たるのは、彼らは学生の時には、真面目だったのかもしれません。というのは昭和40年以降の高校の家庭科の教科書は安全性に関して間違いが多く、さらに中学・高校の先生方が使う虎の巻は、食品添加物の不安を根拠なく煽る人達の内容そのものが多く、呆れてしまうほどです。大学の先生も、科学系でしっかりした人は別にして、間違いを信じている人も少なからずいます。
 そのような間違った教育を受けた年代のごく一部の人が根拠もなく危険を煽っているような気がします。

あきれる2021年の大学入試センター試験
 英語のリーディング問題をお読みになった方は多いと思います。そこには甘味料に関して、科学的根拠の無いことが出題されています。
 日本の食品安全委員会やJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)、 EFSA(欧州食品安全機関)、FDA(米国の食品医薬品庁)など、先進諸国の食の安全を担保した制度を全く無視した内容になっています。(試験の解答とは直接関係ありませんが)細かい間違いは他にもありますが、特に気になる内容は、低カロリー甘味料としてアスパルテーム、アセスルファムカリウム、アドバンテーム、スクラロースを説明しています。「これらが様々な健康への懸念を結びつける調査結果がある」、「甘味料は加熱できないものもあり、ごく少量で砂糖の数百から2万倍の甘さを持つため使いにくい」、「がんの原因となると疑われる強い化学物質を含む低カロリー甘味料がある」「記憶や脳の発達に影響することが示されたものがある。それらは、子供や妊娠中の女性、高齢者に危険な可能性がある」などが書かれています。根拠もなく危険を煽っている人達と問題作成者は同レベルではないでしょうか。
 このような非科学的な問題を出題すると今後の受験生が過去問として勉強するときの安全性に対する誤解だけでなく、諸外国の人達が見たら、日本は何と非科学的なのだろうと驚くのではないでしょうか。とても恥ずかしい問題です。  近年、リスクコミュニケーターの方々が、頑張ってくれているようです。さらに、正しい情報を発信するNPOも活躍をするようになり、喜ばしいことです。
 これからは従来にも増して正しい知識を消費者に伝えるように皆様と共に努力したいと思います。