食品の汚染カビをめぐる危害と安心・安全

国立医薬品食品衛生研究所
髙橋 治男

最近、カビはコミック誌にも主人公の様に登場し、また、塩麹が万能調味料として絶賛され、かつての旧いもの、陰気な存在としてのイメージから、何かこれまで知られなかった能力を秘めた存在として時代の脚光を浴びています。
一方、カビが食品類を汚染すると、変色、異臭、味の変質など、官能的に認識されやすい。さらには、近年、アフラトキシンの様なカビ毒(マイコトキシン)をつくることから、食の安心・安全に大きな関心を集めています。
しかしながら、実際には、カビ毒産生には、カビの種類により産生菌種と非産生菌種があり、カビ=毒カビ、ではありません。また、カビ毒は、カビの2次代謝産物ですので、産生株と非産生株があり、産生株の割合も産生菌種によって異なり、また、アフラトキシン産生菌の場合のように分離源の食品類によっても変動があります。さらには、湿度(水分)、温度の他、食品類の成分によっても影響を受けます。したがって、必ずしも、毒カビ=カビ毒汚染、は成り立ちません。しかしながら、この判別には専門的な知識が必要なうえ、実際には、カビ毒の分析結果を待たなければならないことは当然です。
一方、現在、いくつかのカビ毒には規制があり、アフラトキシン汚染などが懸念される輸入食品類では、水際での検査が実施されています。もし、規制値を超えれば、シップバックされ、また、違反事例として厚労省のHPに掲載されます。平成23年10月からアフラトキシンの規制は、1973年からのB1のみの対象から、総アフラトキシン規制(B1+B2+G1+G2)に改訂されました。これは、食の安全に対する世界的な関心を反映したもので、また、日本政府が国際的協調な路線へ対応した結果とも言えます。輸入食品のアフラトキシン汚染は、ほとんどがB1,B2汚染ですが、最近、中国からの輸入落花生ではG群による汚染が増加する傾向にあり、生産環境変化が懸念されています。また、温暖化により、アフラトキシン産生菌のような、主に熱帯、亜熱帯に生息するカビの北上も憂慮されています。千葉県産落花生におけるアフラトキシン産生菌検察の経年的調査では、明らかな変化は見られていませんが、今後の系統的、持続的な調査が必要とされています。

 

micotoxin.jpgまた、これまで安全とされてきたカビが、その後の科学の進展により、カビ毒産生が認められる場合もあります。クロコウジカビは、食パンや生鮮果実など広範な食品を汚染し、生活環境に普遍的に存在するカビです。このカビの仲間は、食品製造にも用いられています。特に、九州から沖縄にかけては焼酎、泡盛醸造の種麹として利用され、極めて重要な菌です。
この菌に、最近、あいついでカビ毒産生が報告されました。演者らのグループは、沖縄の菌株保存機関などの協力得て、保存株や実際に使用されている醸造株についての遺伝子解析による類別を行うとともに、カビ毒産生をも調べてみました。その結果、クロコウジカビは、カビ毒を産生する遺伝子型と産生しない遺伝子型に別れ、醸造株はカビ毒を産生しない遺伝子型に属し、黒麹菌の安全性が立証されました。

このように、食の安全は、必ずしも固定的なものでなく、環境の変化、科学の進歩によって変化していく可能性があり、常に注目していかなければならない課題であると言えます。