手洗いを中心としたウイルス性胃腸炎の予防および拡大防止策について (2015年5月8日)

森  功次東京都健康安全研究センター
森 功次

ノロウイルス(Norovirus:NoV)は現在の国内における集団胃腸炎事例において関与する割合が非常に大きい病原である。食中毒事例のみでなく、施設内の感染症的な集団胃腸炎事例にもNoVは関与しており、特に高齢者施設においてはNoV感染に関連した誤嚥性肺炎などによる死亡例が報告されるなど社会的な問題ともなっている。このような背景から確実なNoV胃腸炎の発生予防および拡大防止策の構築が必要とされている状況にある。
NoVは感染した際に非常に多くのウイルスが便中に排出されている時期があることや、わずかな量のウイルスで感染が成立すると推定されていることなど、胃腸炎集団事例が発生しやすい要因がある。このような背景においてNoV対策を考えるうえで重要なこととして、NoV胃腸炎発生の要因を認識することがある。発生の要因には、食材そのもののウイルス汚染、調理の際のウイルス汚染、汚染箇所に残存したウイルスからの感染などがあり、それらを認識した対策をとる必要がある。具体的な方策としては加熱等による確実な不活化、手指衛生の徹底、汚染箇所の清浄化および不顕性感染者対策である。
手指衛生策には、石けん類により泡立てたあとにすすぐ手洗いのほか、速乾性消毒剤による擦式消毒、ウェットティッシュによる清拭などがある。代替ウイルスを用いてこれらの効果を比較したところ、手指に残存したウイルス量から石けん類により泡立てたあとに流水ですすぐ手洗いがもっとも効果的であると思われた。調理の際に汚染された食材が原因と推定される食中毒事例は、二枚貝類の喫食によると推定される事例より多くの件数が発生している。これらの事例には、調理従事者が症状がありながら調理作業に従事していた事例や調理従事者が下痢等の症状を呈さない不顕性感染をした状態で調理作業に従事したことによる事例などがみうけられる。これまでに、不顕性感染者においてその便中に含まれるウイルスの量は発症者と有意差のないことを報告してきた。発生件数に差はあるもののノロウイルスに次ぐ集団胃腸炎の起因ウイルスであるサポウイルスについてもこの傾向は同様である。調理従事者がウイルスに不顕性感染していた場合、無症状であることで手洗いがおろそかになれば新たな集団胃腸炎が発生するリスクが高まることとなる。そのため、症状の有無に関わらず手指衛生についての意識を日常的にもつこと、つまりNoVの感染要因が日常生活の近くにあることを認識し、手洗い等の感染予防および拡大防止策を意識し日常的に実践することが発生予防および拡大防止に重要であると考えられる。

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1) Norovirusの代替指標としてFeline Calicivirusを用いた手洗いによるウイルス除去効果の検討:感染症学雑誌80:496-500、2006
2)Norovirusの代替指標としてFeline Calicivirusを用いた、手指に添加したウイルスの速乾性消毒剤による擦式消毒、ウェットティッシュによる清拭および機能水を用いた手洗いによる除去および不活化効果の検討:感染症誌 81:249-255、2007
3)発症者および非発症者糞便中に排出されるNorovirus遺伝子量の比較.感染症学雑誌79:521-526,2005
4) 東京都において集団胃腸炎事例から検出されたSapovirusについて.第61回日本ウイルス学会学術集会、2013