食中毒事件の変遷と対策 (2018年4月16日)

小暮 実

元保健所食品衛生監視員/食品衛生アドバイザー
小暮 実



 厚生労働省のHPには、昭和56年から平成29年までの37年間の年次別食中毒発生状況が掲載されている。発生件数は、平成10年の3,010件をピークに近年は1,000件前後を示している。また、患者数は年間2~5万人の間を推移しており、近年は2万人前後となっている。

 詳細な発生状況の記載がある平成8年以降の約20年間の主な原因物質別発生数をグラフにしたのが図である。

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 発生数がピークの平成10~11年には、サルモネラと腸炎ビブリオによる事件が年間800件を超えるなど流行していたが、産卵鶏へのワクチン投与、魚市場で使用する海水の清浄化や発泡スチロールと氷によるコールドチェーンの確立などにより激減している。これに反して、カンピロバクター、ノロウイルスが登場して、この2種が大半を占めるようになった。カンピロバクターは、生食ブームにより鶏刺、レバー刺などの生食が増加したため、平成10年から急増している。また、ノロウイルスについては、当初は小型球形ウイルスとして計上されていたが、平成14年からはノロウイルスとして計上されている。カンピロバクターやノロウイルスの検査法は比較的新しい検査技術であり、それまで原因不明として処理されていた事件の原因が判明してきたことも増加の遠因である。

 魚の寄生虫であるアニサキスについては、平成16年から計上されているが、平成29年は235件と急増してノロウイルスの214件を超えた。患者は、胃カメラで寄生虫を排除して食中毒であることが判明するため、患者数はほとんど1名である。急増の原因は、最終宿主であるクジラを捕獲しなくなったことや地球温暖化に関連して魚への寄生が増加しているのではないか等の憶測もあるが、マスコミ報道等により周知されてきたことも影響しているものと考える。  患者数の推移をみると、近年はノロウイルスによる患者数が半数を占めているため、何といってもノロウイルス対策が最も肝要である。昨年の「刻み海苔」によるアウトブレークのように、食品事業者としては健康管理の徹底と手洗いの励行が求められている。この事件では、和歌山県の事件で海苔の加工品(磯あえ)が提供されていたことに気づいた東京都の食品衛生監視員の機転で「刻み海苔」が原因であることが判明している。

 死亡事件を契機にユッケには衛生的な規格基準が設定され、牛レバーや豚肉の生食は禁止された。しかし、鶏肉の生食については禁止されていないため、カンピロバクターによる食中毒が多発している。罹患後に一部の患者がギランバレー症候群となることが知られており、鶏肉のリスクを更に啓発し、必ず加熱して喫食するよう啓発することが大切である。厚生労働省では鶏肉店にも加熱用であることを周知するよう指導しており、焼鳥店等での生食の提供自粛の推進が肝要である。

 また、しばしば野菜加工品を喫食したことによる腸管出血性大腸菌O157の食中毒事件が報告されている。昨年8月にも群馬県で惣菜類を食べた女児が死亡する事件が報告されたが、事件の原因はハッキリしていない。こうした痛ましい事件を防ぐためにも、農業生産工程管理(GAP)の推進や野菜流通におけるトレーサビリティの確保が求められている。また、厚生部局からは、同時期に関東信越や西日本でも同一遺伝子による感染広がっていることが公表されている。原因追及のためには、厚生労働部局と農林水産部局の迅速な連携が求められている。