購買行動における不合理性 -消費者のリスク回避志向度を把握する-

古川雅一 東京大学特任准教授
古川 雅一

人間は、様々な意思決定をいろいろな情報をもとに日々行っています。食品の購買行動もその一つです。どの店舗に行くか、どの商品を買うか、といった意思決定を、たとえば商品のパッケージから得られる情報などをもとに行っているのです。ただ、その決定は、必ずしも合理的ではありません。情報収集や情報の捉え方にバイアスが生じ、意思決定に不合理さの生じることが多々あるのです。
この不合理さは、人間の情報収集力や計算能力の限界(限定合理性)によるものですが、そこには様々な法則があります。例えば、次の問題を考えてみてください。

[問題①]10円玉を投げて表が出るか裏が出るかを当てるゲーム。表が出れば50万円の賞金がもらえますが、裏が出れば全く賞金がもらえません。さて、あなたはこのゲームへの参加費がいくらであれば参加しますか。支払っても構わないと考える最高の金額を答えてください。

10円玉を投げて表の出る確率は0.5ですから、数学的な期待値は25万円です。しかし、25万円を支払ってこのゲームに参加する人は少数派でしょう。ほとんどの人が、25万円を下回る金額を提示します。このことは、経済学的に次のように考えることができます。

ゲームの期待効用(満足度の期待値)
=[ 50万円を得た場合の効用(満足度)]×0.5+[0万円を得た場合の効用(満足度) ] × 0.5 < [25万円から得られる効用(満足度)]

 

また、このことは1円あたりの効用が金額の上昇とともに小さくなっていくことを示しており、これを限界効用逓減の法則といいます。グラフで示すと、上に凸状の曲線となります。そして、この逓減の度合いが強いほど、リスク回避志向も強いということです。また、ゲームに参加するために支払っても構わないと考える金額(支払意思額)と期待値(25万円)との差をリスクプレミアムといいます。
食品の購買行動における意思決定の話に戻りましょう。食品には安全性に関する情報も掲示されています。消費者がこれらの情報をどのように捉えるかには個人差がありますが、それによって、前述の限界効用の逓減度合いやリスクプレミアムの大きさも変わってきます。よって、商品を製造、販売する企業にとっては、ターゲットとする購買層の限界効用の逓減度合いやリスクプレミアムの大きさを把握すること、限界効用の逓減度合を軽減するためにはどのような情報提示が効果的なのかを実証分析すること、リスクプレミアムを補完する顧客メリットには他に何があるのかを把握することなどが重要といえます。