~BSEの検査月齢見直しについて学ぶ~ 市民講座聴講報告

 [2012年12月2日日曜日]

~BSEの検査月齢見直しについて学ぶ~ 市民講座聴講報告

12月2日(日)、新宿の東京医科大学病院臨床講堂にて、「食と医療の安全に関わるプリオン病の市民講座実行委員会」主催の第6回市民講座が、標題のテーマで開催されました。
http://www.tokyo-med.ac.jp/news/20121119.html

BSE1202.jpg本年9月の食品安全員会プリオン専門調査会によるリスク評価の結果、年明けより国内のBSE検査対象牛が20か月齢超から30か月齢超に、また米国産牛肉の輸入制限も生後30か月以下に規制緩和されることになったことを受けて、本市民講座ではその安全性を消費者に理解してもらうことを目的としたものでした。休日ということもあり、会場は興味をもった一般参加者でにぎわいました。

第一部の「プリオン病の基礎と研究」では、東京医科大学の八谷如美教授、動物衛生研究所の横山隆研究員、東北大学の堂浦克美教授より、異常型プリオンが原因で感染するBSE(牛海綿状脳症)と、それが種の壁を越えて発症するヒトでのヤコブ病に関して、その基礎と対策をわかりやすく解説いただきました。プリオン病については、いまだ未解明の点が多く、異常型プリオンの感染メカニズムも含めて、治療法が全くない確実に死に至る難病として研究がなかなか進展していないことがよくわかりました。

 では、いまだプリオン病そのものの脅威が拭い去れない状況で、なぜ今回政府はBSE検査や輸入牛肉の条件を緩和する決定をしたのでしょうか?

第二部では、「BSE検査月齢見直しの全容を理解する」と題して、食品安全委員会事務局の姫田尚氏、動物衛生研究所プリオン病研究センターの毛利資郎センター長、厚労省の道野英司氏、農水省の川島俊郎氏より、今回の規制緩和の経緯と根拠について、詳しい解説がなされました。

BSE検査の対象牛が20か月齢超から30か月齢超に変更された根拠は、国内でこれまでに発見されたBSE感染牛36頭のほとんどが48か月齢以上の高齢牛であり、残り2頭のBSE感染牛(21か月齢、23か月齢)でも結局マウスへの接種実験において感染性がないことがわかったことから、BSEの潜伏期間が平均5年であることを考えても、若齢でBSE感染牛が発生するとは考えにくいようです。英国など海外の状況をみても、この判断は妥当なものと思われました。

それよりも何よりも、国内では2002年2月以降に誕生した牛からBSE感染牛が1頭もみつかっていないということは、特定危険部位を除去し、肉骨粉飼料を使用禁止にして以来、BSE感染牛は急速に消え、世界的にもBSEの封じ込めは完全に成功したということでしょう。食品安全委員会のリスク評価に基づいて、肉骨粉飼料を徹底排除した農水省の措置が見事に功を奏し、BSEは日本国内からほぼ根絶したといってよいのだと思われます。

 それにもかかわらず、世界で唯一日本だけがBSE全頭検査を続ける理由は?

実は、7年前にもすでに食品安全委員会の答申に基づいて、20か月齢以下の牛はBSE検査の対象から除外するとの規制緩和がなされたにもかかわらず、各地方自治体は対象牛が1割程度だったこともあり、自主検査を実施し、全頭検査を継続しているそうです(検査費用、全国計で年間1000億円超)。隣の自治体が全頭検査をしているのに、自分の自治体だけやめてしまうと地元の牛肉が売れなくなるというビジネス上の理由からだそうです。

「全頭検査」が消費者に「絶対安全」のイメージを与えているようですが、実際は30か月齢以下の牛でBSE検査をしても、潜伏期間が長いためプリオンは検出不能、かつ万が一プリオンがわずかに存在したとしても感染性はありませんので、食肉のBSEフリーをうたう目的でBSE検査は不適というほかありません。

すなわち「この牛肉は全頭検査をしておりますので、BSEの心配はありません」というキャッチコピーは消費者に誤認を与えているのではないでしょうか?

実際は、特定危険部位の除去と肉骨粉飼料の排除が功を奏して、国内ではもう2002年2月以降に誕生した牛からBSE感染牛がみつかっていないのでご安心ください、もしくは、世界的にみても30か月齢以下の牛からBSE感染性のプリオンはみつかっていないので、国産牛、輸入牛肉(米国、カナダ、フランス、オランダ)に関係なく30か月齢以下は問題がなく、国産牛で30か月齢超でも必ずBSE検査を実施しているのでご安心ください、ということになります。

もう10年間BSE感染牛が発生していないし、BSE全頭検査が無意味というのなら、逆にこられの対策をすべてやめてしまえばよいのにと思われる方もおられるかもしれませんが、肉骨粉飼料の排除とBSE検査によるサーベイランスが十分機能していることが前提で、BSEを封じ込めに成功しているわけで、国際獣疫事務局(OIE)からBSE清浄国と認められなければ、牛肉の輸出ができないことになりますので、厚労省と農水省でこれを継続していく必要があります。

今回の市民講座の最後に、会場の参加者も交えて1時間半におよぶ総合討論がなされ、会場からの質問に演者全員ならびにコーディネーターの上田宗氏(ヤコブ病サポートネットワーク)、水澤英洋教授(東京医科大学)が、丁寧に回答されましたが、BSEの科学的データは複雑ですので、さらなる市民向けの学術啓発活動が重要と実感しました。

当NPOでも来年3月に、BSEを含む動物感染症の国際問題をテーマにフォーラムを開催予定ですので、ぜひご参加ください。

(文責 山崎 毅)