どんぐりの背比べ理論

[2013年10月14日月曜日]

 今回は、食の放射能汚染と健康影響について考える際に、大切なイメージの持ち方をご紹介したい。

 たとえば、コメの放射性セシウム汚染量を分析したときに、サンプルAでは「2ベクレル/kg」、サンプルBでは「10ベクレル/kg」という検査結果だったとしよう。「2ベクレル/kg」のサンプルAの方が汚染量が低いのだから、当然そちらの方が安全だろう、という考え方は正しいのだろうか?答えはNOである。

 消費者は数値データだけを見ると、ついつい「2ベクレル/kg」と「10ベクレル/kg」では5倍も数値が違うので、「2ベクレル/kg」の方が安全と錯覚してしまうが、ヒトへの健康影響がどうかという生物学的視点で考えたときには、健康影響に変わりはないということになるのである。

 それをイメージするには、このコメ(一般食品)を1年間毎日食べ続けた時に被ばくする放射線積算量を計算するとわかりやすい:

 A「2ベクレル/kg」⇒1年間毎日食べ続けたときの被ばく量:約0.02ミリシーベルト
 B「10ベクレル/kg」⇒1年間毎日食べ続けたときの被ばく量:約0.1ミリシーベルト
 発がん率上昇の報告があった最小被ばく量 ⇒ 100ミリシーベルト

 放射線の健康影響として消費者が最も気にするものは、将来の発がん率上昇であろうから、放射線被ばく量が100ミリシーベルトを超える場合には、その健康影響が懸念されることになるが、上述の通りサンプルAもBも年間被ばく量が1ミリシーベルトすら超えていないので、「あまりに低すぎる被ばく量」で健康影響は限りなくゼロに近いと考えてよいのである。

 これが、発がんリスクを正しくイメージするための「どんぐりの背比べ理論」である。

 筆者の考えでは、「2ベクレル/kg」、「10ベクレル/kg」だけでなく、「100ベクレル/kg」も「どんぐりの背比べ理論」によれば、発がんリスクは限りなくゼロに近いため変わらないと言える。極端な話、検査結果が「不検出」でも「100ベクレル/kg」でも将来の発がん率上昇の心配はまったくなく、リスクは同じということだ。

 放射線被ばくのリスクについては、100ミリシーベルト以下でも閾値はなく、どんなに微量でも安全とは言えない、との姿勢をICRP(国際放射線防護委員会)は保持しているようだが、それはできる限り不必要な放射線被ばくは回避した方がよいという思想からきているものであって、生物学者からすると科学的とは言えない。

 過去の疫学報告から、100ミリシーベルト未満の被ばくにより発がん率の上昇が統計学的に認められていなければ、それはシロであり、一般食品の放射性セシウム汚染量で言えば、10,000ベクレル/kgを超えた場合に、初めて健康影響が懸念される汚染量との判断をすべきであろう。

 もちろん食品市場を管理するための放射性セシウムの基準値は、健康影響が懸念される量のギリギリに設定するわけにはいかないが、現在の基準値の100ベクレル/kgは低すぎると思う。欧米と同じ1000ベクレル/kg前後が妥当ではないだろうか。

 いずれにしても、食品の放射能汚染に関する記事や書籍を読まれるときには、必ずこの「どんぐりの背比べ理論」を思い出していただきたい。「2ベクレル/kg」も「100ベクレル/kg」も「不検出」も、すべて発がんリスクは同じで、健康影響の心配は、現在も将来もまったくないということを意識しながら記事を読めば、それが科学的に信用できる情報かどうかの判断ができるであろう。

 消費者がいま、食品による健康影響を気にするべきは、決して放射性物質や原産地の問題ではなく、生活習慣病の主因と目される「栄養バランス」である。やはり、糖質、脂質、タンパク質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの摂取バランスが最も重要であって、塩分を抑えることもそのひとつである。

 NPO食の安全と安心を科学する会は、10月29日に、東京大学食の安全研究センター後援の食育シンポジウム『減塩と健康』を、東京大学農学部キャンパス中島董一郎ホールにて開催します。 食育の第一人者である服部幸應氏(料理研究家、服部栄養専門学校校長、健康大使、医学博士)と日本高血圧学会減塩委員会メンバーの安東克行氏(東京大学大学院医学系研究科特任准教授)を講師に迎え、生活習慣病を予防するための減塩の重要性について学ぶ「大人の食育」講演会とする予定です。ランチタイムには、減塩食材(凍り豆腐、大豆食品)を使用したお弁当(人形町今半謹製)も提供されます。

 皆様、ふるってご参加ください。(詳しくはこちら→http://www.nposfss.com/gen_en/gen_en.html

(文責:山崎 毅)