フードディフェンスの問題をどう捉えるのか?

[2014年1月10日金曜日]

 今回は、いま食の安全の問題として世間を騒がせている冷凍食品への農薬混入事故について、おそらく「フードディフェンス」が原因と思われる事例なので、考察してみたい。

 1月8日の報道では、該当する商品を摂取して自治体に異臭や症状をうったえた消費者が全国ですでに1400名を越えているとの報道もあり、ヒトでの健康被害が出ているとすると、まずは該当商品を食べないことで健康被害を防止することが最も重要である。
 そのためには、農薬マラチオンが混入した可能性のある「株式会社アクリフーズ群馬工場」にて製造された商品リストを同社ホームページからダウンロードし、ご自宅で保管中の冷凍食品に該当食品がないか、至急チェックいただきたい:

http://www.aqli.co.jp/wp-content/uploads/2014/01/news_20140108_1.pdf

*ラベルに「アクリフーズ」と表示されていない別ブランドの商品もあるので要注意!

 該当する商品をみつけられた方は、必ずホームページに掲載されている返品方法に基づき、着払いで製造元に商品を送っていただきたい。なぜかというと、市場からの商品回収率を上げることで、できるだけ健康被害のリスクを下げる必要があるからだ。もし面倒だからといって商品を廃棄されてしまうと、商品回収率があがらず、ずっと健康リスクが高いまま、社会全体に不安な状況が続くことになる。

 感覚的には、お子様が友達の家に遊びに行って、おやつにピザをいただいたが、帰宅してからどうもお腹の具合が悪い、といった場合に、今回の商品回収率が低いという報道をきいていた母親が、まさか今回のマラチオンが入っていたのではないかと不安になり、精神的ストレスで倒れた、というようなことを想像するとわかりやすいであろう。

 それくらい健康被害が起こりうる商品の回収率をあげることは、消費者自身の健康を守ることは当然として、社会全体にとっても非常に重要なことなのだ。ぜひとも、お宅の冷凍庫を至急チェックし、該当商品を着払いで返品していただきたい。

 ちなみに、読者の皆様は今回の問題が起こった食品メーカーの名前をご存じだっただろうか?大手食品メーカーの子会社であったこともあり、名前を聞いたことがないという方も多かったのではないだろうか? ということは、メーカー名を意識せずに購入された冷凍食品の中に紛れ込んでいる可能性があるので、「買った覚えがないので、まさかうちの冷凍庫には入ってないはず・・」という先入観は捨ててほしい。

 標題の件に話題を戻して、今回なぜ農薬マラチオンが食品に混入したのか、いまだ原因や混入経路が判明していない中で、あくまで推測の域を越えないが、明らかにいえることは加工食品の原料に農薬汚染があったわけではないということである。2008年に発生した中国製冷凍餃子への農薬・殺虫剤メタミドホスが混入した事件をご記憶の方々は、今回もまた中国製品の農薬混入か?と早合点された方も多いのではないだろうか?

 しかし、おそらく今回は、問題の群馬工場での最終包装工程施設において、農薬マラチオンが何者かによって意図的に注入された可能性が高いと言われており、典型的な「フードディフェンス」の問題ではないかと考えられている。「フードディフェンス」の定義は、コトバンクによると以下の通りである:

◎フード‐ディフェンス 【food defense】
食品への意図的な異物の混入を防止する取り組み。原料調達から販売までのすべての段階において、人為的に毒物などが混入されることのないように監視するもの。食品防御。FD。→食品テロ

 上述のメタミドホス混入事件(2008年)はまだ記憶に新しいが、古くはグリコ・森永事件に始まる重大な食品テロ事件が日本でも何度か発生しているわりに、このフードディフェンスに関する日本企業の対応は、いまだマチマチのようである。

 これは、いまだ労使関係を良好に保つために重要な「信頼」というキーワードが影響しているようであり、製造現場に監視カメラが普及しきれていない現状があるものと思われる。ただ、今回のマラチオン混入事故のケースでは、製造工程のカメラ監視や製造施設の入退出セキュリティも行われていたというので、非常に原因究明を難しくしているようである。

 やはり、犯人がみつかる手がかりは農薬マラチオンの入手ルートあたりがカギとなりそうな気がするが、重要な視点はむしろ犯人が捕まることで、いかにしてマラチオンを注入したのかという犯行手口が判明することにあるだろう。それ次第で、いかにフードディフェンス対策を講じるかも変わってくるので、何とか今回の事故原因が究明されることを望みたい。

 日本政府がTPPへの参入を決め、今後さらにグローバル市場に出ていかなければならない日本の食品メーカーにとっては、海外に出ていけば、当然工場の従業員もすべて現地で調達することになるので、フードディフェンスは避けて通れない問題になってくる。このフードディフェンスに関してさらに詳しく学びたい方は、国際食問題アナリスト:松延洋平氏のご講演資料を、以下のサイトにて参照されたい:

◎松延洋平氏(コーネル大学終身評議員、国際食問題アナリスト)
「これからのわが国の食の安全とフードディフェンス」― グローバル化の中のリスク・危機管理のあり方 ― 日本フードスペシャリスト協会平成22年度通常総会記念講演より
http://www.jafs.org/pdf/H22_general%20_transcription.pdf

この松延氏の講演資料を読ませていただくと、今回の冷凍食品へのマラチオン混入事件を予見されていた感があり、よりグローバル化と人材の多様化が進む日本の食品企業にあっても、フードディフェンス対策への投資が必要な時代になってきたことを、食品メーカーの経営層が認識すべきと実感する。食の安全を守るために製造・品質管理を地道に継続することで、大きな食品事故を防ぎ、企業ブランドを守り続けてきた日本の食品メーカーにとって、今回のフードディフェンスの問題は喫緊の課題となりそうである。

(文責:山崎 毅)