『福島の方々の地産地消への思いに触れて』

[2015年10月18日日曜日]

 このブログでは食品のリスク情報とその双方向による伝え方(リスクコミュニケーション)について毎回議論しているが、今回は先日、当NPO主催で開催した「食の安全・食肉の魅力2015@コラッセふくしま(10/12)」のシンポジウム/福島県銘柄食肉試食会に参加した際に、福島県民の皆さんと接して感じたことを綴ってみたい。まずは、福島市にて開催したイベントの活動報告をご参照いただきたい:

◎『食の安全・食肉の魅力2015② in 福島』活動報告
 http://www.nposfss.com/cat1/2015in.html

 お肉を食べることの健康維持のための重要性や美味しさ・食べやすさなどに関するご講演を西村敏英先生(日本獣医生命科学大学教授)と本田よう一先生(地元福島の料理家)からお教えいただき、ご参加いただいた皆さんも有意義な情報を得られて、楽しんでいただいたものと思うが、やはり福島県の方々にとっての大きな関心事が食の放射能汚染問題であることから、東北大学准教授の福田智一先生による「離れ牛を用いた体内における放射性物質の動態の解析」というご講演はインパクトがあったものと思う。

 福田先生のご講演内容からいくつか重要な情報を以下にピックアップした:

・原発事故から発生した人工の放射線と天然に存在する自然放射線の人体への影響は同じである。すなわち、人工の放射線だから健康への悪影響が大きいという理論は誤りである。

・外部被ばくと内部被ばくの決定的に違う点は、核種によって生体内でたまりやすい部位や挙動が異なることである。すなわち、福島県内の放射線レベルが高い警戒区域などにいて環境からくる外部被ばくと、住んでいる場所に関係なく放射能に汚染された飼料/食品を摂取することにより生体内に入ってくる内部被ばくは、分けて考える必要がある。

・2011年~2013年に福島原発周辺の警戒区域内で捕獲された「離れ牛」の血液、筋肉、臓器中の放射性物質を解析したところ、警戒区域を放浪していた牛であるにもかかわらず、外部被ばくにより放射性セシウムが骨格筋(牛肉)に汚染するわけではなく、あくまで汚染された飼料(牧草・稲わらなど)を食べたことによる内部被ばくで肉の放射性セシウム汚染が起こっていたということが判明した(汚染していない飼料を食べていた牛の肉からは放射性セシウムは検出されない)。

・また、内部被ばくした牛の血液と骨格筋中の放射性セシウム濃度に強い相関がみられたことから、血中の放射性セシウムを測定して骨格筋中の放射性セシウム汚染濃度を推定することができるソフトを開発した。このソフトを使うことで、肉牛を屠畜する前に採血・検査し、牛肉の放射能汚染を事前に予測することができるので、無用な風評被害を未然に防止できないかと考えられているようだ(たしかに食肉の放射性物質検査で陽性が出てしまうと大きな報道~風評被害になりかねない)。

・福島県産の食肉で市場に流通している商品は放射性セシウム汚染の心配はまったくない。なぜなら、牛肉は全品放射性物質検査を合格しており、豚肉は輸入飼料なので放射能汚染のチャンスすらないからだ(それでも抜き取りのモニター検査はしているとのこと)。

 講師先生方のご講演の後に、参加者の皆様に福島県銘柄の食肉2種(「福島牛」「麓山高原豚」)を焼肉でご試食いただいたが、その模様は上述の「活動報告」にて写真をご参照いただきたい。談笑しながらのご試食を拝見し、別にふくしま復興支援だからというわけでもなく、自然に地産地消を楽しんでもらったように見えた。また、お子さんも含めてご家族でお見えになった方々がおられたのも非常に嬉しかった。

 福島原発事故の翌年2012年に「ふくしま再興フォーラム」と題して福島中央テレビさんとの共催で郡山市にて開催したシンポジウムにおいて、筆者が「福島県民の皆さんが地元の農畜産物を食べないと言っていたら、東京の消費者も福島県産の食品を食べませんよ」と苦言を呈したことを思い出したが、その思いは今も変わらない:

◎第1回ふくしま再興フォーラム@郡山市(2012年7月21日)
 http://www.fct.co.jp/tsunagaro/f_saikoforum/120721.html

 放射性セシウム検査をして不検出だから安全ということでは決してない。毎日食べている食品に自然に放射性カリウムが数百ベクレル/kg含まれていて、われわれの身体が常時内部被ばくしているという科学的事実を冷静に考えると、現時点でそれよりはるかに低いレベルの放射性セシウム汚染を気にするのはナンセンスなのだ。

 なおかつ、もし万が一放射線レベルの高い食品(たとえば1万ベクレル/kg以上)を1週間食べ続けたからといって将来の発ガンにつながるわけではないこともご理解いただきたい。いわゆる放射線の生体への影響には「確定的影響」と「確率的影響」があるということだ。ヘビースモーカーと1週間同じ部屋に宿泊したからといって、将来肺がんになることが確定するわけではないと言えば、イメージがわくだろうか?ヘビースモーカーと1年間同じ部屋に宿泊したら、将来肺がんになる確率はおそらくわずかに上がるだろうから、それは避けなさいと賢明な科学者たちは言うだろう。

 いずれにしても、いまの福島県産の農畜水産物の放射能汚染は低すぎて無視できるレベルなので、将来の健康影響を心配する科学的根拠がないということだ。福島県の皆さんも地産地消を楽しんでいただきたいし、福島県産より西日本産の農産物が安全だからと大きな勘違いをしている消費者の方々は、早く科学的に間違っていることに気づいていただきたい。

 今回、福島市での食肉シンポジウム終了後、少し足を伸ばして福島市郊外山中の隠れ家的なレストラン「ゆず沢の茶屋」にて素晴らしいお食事(ゆず味噌おにぎり・田楽などの御膳)をいただいたが、まさに地産地消を絵に描いたような美味い料理に舌鼓をうった(ご紹介いただいた森嶋さんに感謝です):

 「ゆず沢の茶屋」
 福島県福島市荒井字横塚2-8 Tel 024-593-5088
 https://www.facebook.com/pages/ゆず沢の茶屋/472016142888822

 JR福島駅から車で20分強かかるが、食の放射能汚染のことなど全く忘れさせてくれる食事と自然の中の雰囲気が素晴らしいレストランなので、ぜひ一度訪れてみられることをおススメしたい。

 以上、今回のブログでは、福島で開催した食肉イベントと、それに付随して食の放射能汚染のリスコミ事例について考察しました。SFSSでは、食品のリスク管理やリスコミ手法について学術啓発イベントを実施しておりますので、いつでも事務局にお問い合わせください:

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2015@東大農学部(10/25)事前参加登録受付中
 第4回『消費者が過敏になりがちな「ハザード」に関してのリスコミ』(参加費:3,000円)
 http://www.nposfss.com/riscom2015/index.html

 また、当NPOの食の安全・安心の事業活動に参加したいという皆様は、ぜひSFSS入会をご検討ください。よろしくお願いいたします。

◎SFSS正会員、賛助会員の募集について
  http://www.nposfss.com/sfss.html


(文責:山崎 毅)