新型コロナ:健康被害の起こりうるリスクは?
~ゼロリスクはないが、許容可能なリスクなら安全~

[2020年6月22日月曜日]

 "リスクの伝道師"SFSSの山崎です。毎回、本ブログでは食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連して、いろいろなリスクの大小を比較することの重要性について、考察したいと思います。なお、世界中でCOVID-19により亡くなられた方々に心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 いまなお世界で新型コロナウイルスによるパンデミックは継続中であり、ある意味この地球上で生きている限り、我々はCOVID-19に感染して健康被害に遭うリスクをゼロにすることは不可能だろう。6月17日には、世界で1日に感染した人が15万人を超え、累積の死亡者数も45万人を超えたという(COVID-19 Dashboard by CSSE at Johns Hopkins University)。だから、我々は新型コロナウイルスと共存していく道を探るしかなく、社会として感染者を自然に増やして「集団免疫」を高めるべきいう提言をした科学者たちもいたが、スウェーデンやイギリスでは実際それを試みて失敗している。

 日本においても最近発表された東京・大阪・仙台で実施された一般市民の抗体検査の結果を見る限り、いまだ感染履歴のある市民は1%以下ということが判明しており、市民の6割・7割以上が免疫を持たない限り成立しないと言われる「集団免疫」には程遠い状況だ。そうなってくるとワクチンや著効する治療薬が出て来ない限り、高齢者や基礎疾患をもつ方々にとっては非常に怖い疾患なので、しばらくの間はすべての市民にとっても感染することの健康リスクが非常に大きい感染症と言わざるをえない。

 市民にとってリスクが許容可能(Tolerable)な水準に抑えられた状態を「安全」と定義するので、COVID-19の感染者がいまだ報告されていない岩手県は本感染症に関して「安全」と言ってよいだろう。しかし、県外からのヒトの物理的流入を禁止する移動制限をかけて、ゼロリスクを目指すことはやり過ぎだ。なぜなら、市民の感染リスクが十分小さく「安全」なのに、移動制限をかけることで県外との往来によるビジネスや観光を抑制し、経済損失リスクを大きくしているからだ。具体的には県内のホテルや旅館が廃業に追い込まれて、自殺者が出たりすれば、それも間接的な健康被害といえるわけだ。

 本ブログでは、これまで何度も議論している原理だが、これを「リスクのトレードオフ」と呼ぶ。市民のリスク低減を左右する公共政策を、行政担当者や立法担当者が検討する際に、この「リスクのトレードオフ」は十分理解しておくべき原理だろう。とくに今回の新型コロナ問題を考える際に、この未知のウイルスの感染リスクを最小化する対策として、世界も日本もヒトとヒトとの接触を物理的に制限する、ロックダウンや外出自粛・休業要請・移動制限などを市民に課したわけだが、これはまさにゼロリスクを目指したものの、感染リスクを抑えることに失敗した上に、大きな経済損失リスクを生み出したように見える。

 国内での緊急事態宣言もやっと解除され、経済封鎖による損失リスクがなくなった今、経済活動を早く元に戻しながらも、明らかに世界のCOVID-19感染リスクはいまだ残っているわけで、これからは個人/民間が主体となって感染予防活動によりリスク低減をしていかなければならない。もちろんそこには政府/自治体による支援も必要であり、とくに新型コロナ陽性者をスムーズに隔離するための検査体制(PCR+抗原検査)や感染拡大に備えた医療体制の確保が重要だ。

 では、個人/民間が行うべきリスク低減活動において、どこまで実施すれば健康被害のリスクが無視できるくらい最小化できるのだろうか?筆者が考えるリスクの大小評価を、以下の表にまとめてみたので参照されたい(SD=ソーシャル・ディスタンス):

fig_2020_06.jpg

 以上、新型コロナウイルス感染症に対するリスク低減策の健康リスクの大小を評価してみたわけだが、リスクを無視できるレベル(ニヤリーイコール・ゼロ)まで落とすことは十分可能との見解になった。すでに直近2週間、生活圏内で感染者の報告がない地域もあると思うが、その場合は「外出時マスク着用」+「頻繁な手洗い・環境消毒」さえ実行すれば、ソーシャルディスタンス(SD)を気にしなくても健康リスクは無視できると評価した。ただ直近2週間、生活圏内で感染者の報告がまだ続いている首都圏などでは、「外出時マスク着用」+「頻繁な手洗い・環境消毒」+SD維持がリスクを無視できるレベルまで下げる対策とした。

 あともし自分が無症状感染者だった場合に、他人にウイルスを移さないためには、やはりこの「外出時マスク着用」+「頻繁な手洗い・環境消毒」+SD維持がリスクを最小化する最善策と評価した。ただし、今回のリスク評価においては、移動制限・休業要請・非感染者の外出自粛(Stay Home)を想定しておらず、必要以上の経済制限をしないウイズ・コロナの生活様式として考察した。また、有症感染者や医療/介護従事者の場合はさらに特殊なケースにはるが、有効なリスク低減策を提言するためには、このようなリスク評価法でリスクの大小をイメージしながら議論すること、すなわちリスクコミュニケーションが重要ということだ。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、日々世界中の研究者から論文発表され、新たな知見が伝わってくることで、専門家たちの見解も少しずつ変わってきたが、われわれの見解はぶれていない。中国武漢から始まり、ダイアモンド・プリンセス号における集団感染を契機に、わが国にも徐々に侵攻してきた未知のウイルス"SARS-Cov-2"に対して、その特徴的な感染形態と重篤性など限られた情報をもとに、公衆衛生上のリスクを評価し、どのような感染予防策をとるべきか、SFSSでは2月中旬から国立医薬品食品衛生研究所客員研究員の野田衛先生にご助言をいただきながら、以下のようなリスコミ活動を続けてきた:

 ◎「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防法について」
  BLOGOS 山崎 毅(食の安全と安心) 2020年02月19日
  https://blogos.com/article/437209/

 野田衛先生が提唱された「集団予防」のポイントは以下の3つだ:
   ① 飛沫をあびないこと(飛沫感染防止;マスクも有効)
   ② 手洗いまでは顔をさわらないこと(接触感染防止)
   ③ 消毒薬をうまく使う(アルコール以外も有効利用)

 以上、今回のブログでは緊急事態宣言解除後の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の健康リスク低減策に関して、具体的に考察しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(参加費は1回3,000円です)ので、よろしくお願いいたします:

 ◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2020 開催案内
  http://www.nposfss.com/riscom2020/
 第1回 6月28日(日)ゲノム編集食品~新たな育種技術のリスコミ~(オンライン開催)
 ① 田部井 豊(農研機構)『ゲノム編集作物の開発状況と規制状況について』
 ② 江面 浩(筑波大学生命環境系)『ゲノム編集トマトの開発と社会実装について』
 ③ 佐々 義子(くらしとバイオプラザ21)『ゲノム編集食品に対する消費者の受けとめ方』
  第1回 講演要旨まとめ(PDF/208KB)

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com