『摂取量と副作用発現量との距離感』

[2015年12月11日金曜日]

 このブログでは食品のリスク情報とその双方向による伝え方(リスクコミュニケーション)について毎回議論しているが、今回は健康食品/サプリメント/機能性表示食品等の健康リスクについて考察したので、ご一読いただきたい。

 まずはこの度、食品安全委員会の『いわゆる「健康食品」の検討に関するワーキンググループ(WG)』から発表された健康食品全般に関する注意喚起文:「健康食品についての19のメッセージ」をご参照いただきたい:

 ①「食品」でも安全とは限りません。
 ②「食品」だからたくさん摂っても大丈夫と考えてはいけません。
 ③同じ食品や食品成分を長く続けて摂った場合の安全性は正確にはわかっていません。
 ④「健康食品」として販売されているからといって安全ということではありません。
 ⑤「天然」「自然」「ナチュラル」などのうたい文句は安全を連想させますが、科学的には「安全」を意味するものではありません。
 ⑥「健康食品」として販売されている「無承認無許可医薬品」に注意してください。
 ⑦通常の食品と異なる形態の「健康食品」に注意してください。
 ⑧ビタミンやミネラルのサプリメントによる過剰摂取のリスクに注意してください。
 ⑨「健康食品」は医薬品並みの品質管理がなされているものではありません。
 ⑩「健康食品」は多くの場合が「健康な成人」を対象にしています。高齢者、子ども、妊婦、病気の人が「健康食品」を摂ることには注意が必要です。
 ⑪病気の人が摂るとかえって病状が悪化する「健康食品」があります。
 ⑫治療のため医薬品を服用している場合は「健康食品」を併せて摂ることについて医師・薬剤師のアドバイスを受けてください。
 ⑬「健康食品」は薬の代わりにはならないので医薬品の服用を止めてはいけません。
 ⑭ダイエットや筋力増強効果を期待させる食品には、特に注意してください。
 ⑮「健康寿命の延伸(元気で長生き)」の効果を実証されている食品はありません。
 ⑯知っていると思っている健康情報は、本当に(科学的に)正しいものですか。情報が確かなものかを見極めて、摂るかどうか判断してください。
 ⑰「健康食品」を摂るかどうかの選択は「わからない中での選択」です。
 ⑱摂る際には、何を、いつ、どのくらい摂ったかと、効果や体調の変化を記録してください。
 ⑲「健康食品」を摂っていて体調が悪くなったときには、まずは摂るのを中止し、因果関係を考えてください。

 これら19の注意喚起文だけでは理解が困難なメッセージもあるので、できれば以下のサイトで経緯説明文や解説も併せて読むと、イメージがわきやすいのではないかと思う。

 https://www.fsc.go.jp/osirase/kenkosyokuhin.html
 https://www.fsc.go.jp/osirase/kenkosyokuhin.data/kenkosyokuhin_message.pdf

 当初、「いわゆる健康食品」、すなわち国内法令で規定された保健機能食品(栄養機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品)を除く健康を訴求した食品群について、本WGでその安全性を検討されるものと理解していたが、最終的には「健康食品全般」の安全性を評価したうえでのリスクコミュニケーションとなったようだ。この点、「いわゆる健康食品」の安全性に関して懸念事項が多いものと考えていた筆者にとっては若干的が外れた観もあるが、一般消費者の目にはこの19のメッセージがどう映るのであろうか。

 全体の印象としては、いままで健康食品を信じて利用してきた消費者の方々にとっては、いささか首をかしげるような文章も多いように思うが、「いわゆる健康食品」の場合はこれくらい厳しいメッセージでちょうどよい警告文なのだろう。ただ国内法令で規制された「保健機能食品」は、国による審査や国への届出をもって安全性や製造・品質管理に関する情報が開示されているため、当てはまらないメッセージもあると筆者は考えた。

 まず、メッセージ③に関しては機能性表示食品として消費者庁に届出がされたサプリメントで、1日摂取推奨量での喫食実績が長いものに関しては、かなり正確にその安全性が確保されていると言えるのではないだろうか。たしかに「いわゆる健康食品」では長期的な喫食実績の有無も含めて安全性情報が不明のため、「正確にはわかっていない」の表現が当たっていると思うが、「保健機能食品」など安全性のエビデンスがしっかりした健康食品に関しては、この③は該当しないように思う。

 メッセージ⑤の「天然」「自然」「ナチュラル」が科学的には「安全」を意味するものではないとの注意喚起は、合成添加物の安全性を考える際にも重要なポイントなので、さらに強調していただきたい点だ。天然ハーブ由来の「いわゆる健康食品」で、安全性情報が不明確な成分は、食薬区分で医薬品の範疇に入ってもおかしくないので、「天然」のほうがむしろ危険ということは意外に多いはずだ。

 メッセージ⑥の「無承認無許可医薬品に注意」は、医薬品成分の混入を一般消費者が選別することは非常に困難と思われる。強いていうなら明らかに疾病の治療を標榜した健康食品(「がん予防」「認知症予防」など)がこれに該当するが、それも容易ではないだろう。筆者がおすすめできることは、やはり「保健機能食品」を選ぶことで、GMP基準など製造・品質管理情報が開示されている健康食品ならば、「無承認無許可医薬品」にはあたらないため、心配はいらないと考える。

 メッセージ⑦の「通常の食品と異なる形態の健康食品」は錠剤・カプセル・粉末・顆粒などのサプリメントをさすものと思うが、筆者の感覚では、医薬品と形状が近いこともあって一度に多量を摂取すると副作用が出るのではないかとの恐れから、十分摂取量を確認している消費者も逆に多いのではないかと推測する。ただダイエット関連のサプリメントに関しては、効果が明確に顕われない場合に過剰摂取を誘引しやすい点はたしかにあると思うので、注意喚起が必要だ(メッセージ⑭にも登場)。

 メッセージ⑬は、おそらく「いわゆる健康食品」が原因で起こるもっとも大きな健康被害にあたると思われ、特にガン治療の医療機会損失のため寿命を短くしている患者さんがたくさんおられるのではないかと危惧されるところだ。もちろんガンの進行状況にもよると思われるが、医療技術の進歩に伴い、ガン治療の延命効果もかなり優秀になっているはずだが、いい加減な体験談等による高額健康食品の効果を真に受けてしまうと、せっかく奏功するはずだったガン治療を副作用がきついなどの理由でやめてしまうのも頷ける。これは大変危険な誘引だ。「誰かにとって良い「健康食品」があなたにとっても良いとは限りません」という解説文も、体験談や口コミで販売される高額健康食品の手口に引っかからないためには、非常に重要なメッセージだ。

 逆に、メッセージ⑮の「健康寿命の延伸(元気で長生き)」については、おそらくこの目的で健康食品を摂っている消費者がもっとも多いのではないかと思うので、ここは希望的観測も含めて、疫学研究などで何か間接的にでも有効性が実証された保健機能食品が将来登場してほしいものだ。国民のほぼ半分が健康食品を利用しているということは、やはり健康長寿を夢見ると同時に、重い病気にはできればかかりたくないという切なる思いが、健康食品に投資する日本国民の気持ちに反映されているように思う。

 メッセージ⑯⑰は、新たな機能性表示食品制度に関わる内容と見える。健康食品の安全性/有効性に関する科学的根拠情報が食品事業者から消費者庁に届出をされたうえで、情報公開された後60日で販売可能になるので、まさに消費者自身が「情報が確かなものかを見極めて、摂るかどうか判断できる」というインフラは整ったということだ。それに反して⑰では、健康食品を摂るかどうかの選択は「わからない中での選択」というシニカルなメッセージになっているが、これは「医薬品のように効能が保証されたものでなくても、本当に自分の意思で買うのですね!」というWGの先生方から消費者への最後通告のような印象だ。

 メッセージ⑱⑲は、健康食品の有害事象情報をできるだけ集積することで、健康食品群の副作用の実態全容をできるだけ把握したいというWGの先生方の強いご希望が感じられる。機能性表示食品制度においても、食品事業者に販売後の有害事象情報を収集・報告する義務が生じているので、実際機能性表示食品を継続摂取することで身体の変調を感じられた方は、迅速に企業のお客様相談室にお電話いただきたい。もちろん保健機能食品以外のいわゆる健康食品においても、もし問題があるようなら医師などを通じて国民生活センター、地域の保健所等にご連絡いただくのが重要だ。

 以上、食品安全委員会から発信された「健康食品についての19のメッセージ」に関しての見解を述べさせていただいた。たしかに、食品添加物、残留農薬などADI等に基づいて使用基準が決まる食品中のハザードと比較した場合には、健康食品の健康リスクが大きいことは納得できるところだ。ただ、その健康食品の人体への健康リスクが、実質的に副作用/健康被害が発現するような用量なのかどうかというと疑問だ。以下に、健康食品の摂取量と副作用発現量の距離感をイメージにして示したのでご参照いただきたい:

摂取量と副作用発現量の距離感のイメージ.jpg

 このイメージ図のとおり、医薬品は服用量(摂取量)と副作用発現用量が近く、たとえば制ガン剤などでは服用量と副作用発現用量が逆転して、摂取量でも副作用が発現する。ところが医薬品でも効果が弱めにでるOTC第3類医薬品などや健康食品では服用量/摂取量と副作用発現用量の距離がかなり遠いことになる。すなわち健康食品であれば、たとえば推奨摂取量での効果はマイルドだが、推奨摂取量の5倍量の暴露でも副作用は発現しないことがメリットとなる。

 もしこのイメージのとおりの健康食品が多ければ、健康食品の実質的な安全性はさほど心配するものではないことになるが、そのためにはやはり今後「いわゆる健康食品」から「機能性表示食品」に格上げする健康食品が増えていく必要がある。「いわゆる健康食品」のままでは、医薬品に近いような摂取量と副作用発現量が近いものが混在してしまう可能性が残るからだ。できるだけ喫食実績やヒト臨床の安全性試験(摂取量の3倍量摂取など)で安全性エビデンスがしっかりした機能性表示食品を増やしていくことが、健康食品メーカーの喫緊の課題と言えよう。

 以上、今回のブログでは、健康食品の健康リスクについて考察しました。SFSSでは、食品のリスク管理やリスコミ手法について学術啓発イベントを実施しておりますので、いつでも事務局にお問い合わせください:

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2015(10/25)
 第4回『消費者が過敏になりがちな「ハザード」に関してのリスコミ』 速報
 http://www.nposfss.com/cat9/risk_comi2015_04.html

 また、当NPOの食の安全・安心の事業活動に参加したいという皆様は、ぜひSFSS入会をご検討ください。よろしくお願いいたします。

◎SFSS正会員、賛助会員の募集について
 http://www.nposfss.com/sfss.html


(文責:山崎 毅)