『安心のための必要条件:「安全」と「信頼」』

[2017年4月10日月曜日]

 "リスクの伝道師"ドクターKです。このブログでは食品のリスク情報とその双方向による伝え方(リスクコミュニケーション)について毎回議論していますが、今月もまた豊洲市場移転問題における都民の「食の安全」と「食の安心」について説明してみたいと思います。

 まず先月3月30日に、SFSSがコーディネーターとして豊洲市場移転問題の「食の安全と安心」に関する専門家の統一見解を都庁記者クラブ会見場にて発表したので、その概要を確認されたい:

<プレスリリース>
豊洲市場移転問題の「食の安全と安心」に関する専門家の統一見解(3/30)
@都庁記者クラブ会見場

http://www.nposfss.com/cat9/toyosu_0330.html

豊洲市場移転問題の「食の安全と安心」に関わる専門家の統一見解:

  1. 豊洲市場と現在の築地市場を衛生管理面から比較すると、安全性が高いのは豊洲市場の方である。
  2. 豊洲市場の地下水で環境基準を超過するベンゼン等が検出されたが、環境基準の意味を考えると食の安全性が脅かされると言えない。
  3. 都は、都民の食生活を支える上で重要な卸売市場の役割を考えて都民と市場関係者ほかの不安に応える具体的施策を示しつつ、適切なリスクコミュニケーションを実施し問題解決を急ぐべきである。

 以上3項目について、三十数名の食の専門家たちが同意したという事実を、本記者会見で統一見解としてお伝えした。

 豊洲市場移転問題に関して何ら利害関係のない「食の安全・安心の専門家たち」が、純粋に東京中央卸売市場の「食の安全」を科学的/客観的/中立的にリスク評価したうえで、上記の統一見解に賛同したということを重視すべきだろう。また、食の安全のプロにとっては、衛生管理面で「地下水の環境基準クリア」が優先順位として、いかに低いかを物語っている。打診した食の専門家たちの中で、「築地市場の方が安全」もしくは「安全性が同等」と反論したものはただのひとりもいなかったという事も付け加えておきたい。情報発信者が市民の「食の安全」を真摯に守ろうとしているのか、それとも自分の利得のために「食の安心」を振りかざして市民の不安を煽っているのか、しっかり見極めていただきたいものだ・・

 なお、本記者会見に登壇した3人の代表者(山崎も含む)より、専門家の統一見解にいたった基本的な考え方や周辺情報について、あくまで個人的見解としながらご解説いただいた。

<食の安全・安心に関わる専門家の代表>

  • 関澤 純(NPO法人食品保健科学情報交流協議会 理事長/元徳島大学教授)
  • 広田 鉄磨(一般社団法人食品品質プロフェッショナルズ゙代表理事/関西大学特任教授)
  • 山崎 毅(NPO法人食の安全と安心を科学する会 理事長)

 関澤純先生からは、長年にわたって国際的環境問題も含めて先生が実践してこられたリスクコミュニケーションのあり方や法規制の実態等についてご説明いただき、豊洲市場の地下水で問題となっている「ヒ素」汚染についても、具体的リスコミ事例として解説いただいた。また広田鉄磨先生からは、国際食品安全規格のHACCP認証が卸売市場でも重要性が増しており、少なくとも豊洲市場ではハード面でHACCPがカバーできているため移転を急ぐべしとのコメントをいただいた(築地市場はHACCP認証取得には改修工事が必要)。

 山崎自身からも、「食の安全」に関する豊洲市場/築地市場のリスク比較表(以下をご参照のこと)を説明させていただいた。その際、市場の「食の安全」を定性的にリスク比較するうえで、評価項目に優先順位をつけることが重要であり、とくに「地下水」など市場の外部環境は優先順位が低いことを説いた。なお、本リスク比較表は定性的リスク評価による判定結果のため、あくまで統一見解とは区別した山崎の個人的見解であることをご了承いただきたい(専門家により意見が分かれるのは自明⇒「◎」ではなく「○」だろう、「△」ではなく「×」だろう、などなどのご指摘がありうる。あと「耐震性」は山崎の専門外であり大目にみていただきたい)

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 また「食の安心」のためには、「地下水が汚染された豊洲市場で生鮮食品を扱うのは不衛生で気持ち悪いじゃないか」という都民の不安に対して、地下水と市場内の距離感をイメージできるような具体的リスコミ手法をご紹介した(Twitterにて延べ1,100人以上のRTあり):

『豊洲市場は地下水が汚いのだから、便所の上で生鮮食品を扱うようなものだと不安を煽る方がいる。どうだろう。地下3階にトイレがある鉄筋コンクリートビルの真上1階のレストランでは不衛生で食事できない、というナンセンスと比較して欲しい。』
https://twitter.com/NPOSFSS_event/status/843591750782402560

 市場の外部環境(地下水)がこの程度のベンゼン汚染濃度では、豊洲市場内に対して何の影響も起こりえないことは明白だが、最初に豊洲市場の地下水を環境基準以下にしようとした目標自体(築地市場の業者さんたちへの約束)が、過剰品質を約束してしまった東京都の失敗であろう(そうでもしないと移転に同意が得られなかった?)。

 わかりやすい例え話で言うと、都内のマンションで敷地内にある井戸水を飲み水基準(環境基準)まで綺麗にしますわ、とマンション施工業者が住民に約束することはないということだ。埋め立てなどで何か有害物質が地下にあったとしても、上水道やマンション内の空調に問題がなければ、法的安全性にも問題はなく、わざわざ地下水をモニタリング検査して、住民の不安を煽るようなデータ開示をする必要はまったくない、ということだろう。

 ただそれでも豊洲がもともと土壌汚染のあることがわかっていた土地なのでイメージが悪くて安心できないと言われるのであれば、それは豊洲市場の「食の安心」をどうやって回復するかを議論した方が前向きで無駄な税金の投入も不要なので、安全な豊洲市場への移転を前提に議論したほうがよいのではないか。記者会見においても、都民の「安心」のためのリスコミの必要条件として「安全学」にくわしい明治大学名誉教授向殿政男先生が提唱された以下の方程式をご紹介した:

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 すなわち、都民の「食の安心」のためには、豊洲市場の「食の安全」に関わるリスク情報を"都民に信頼されているリスク管理責任者"から情報発信すること(リスクコミュニケーション)がポイントということだ。いま東京都庁で都民からもっとも信頼されているのは誰だろう⇒⇒都民から一番信頼されている小池都知事の『豊洲市場安全宣言』が都民の「安心」につながることは間違いない。市民にとって安心は重要だが、その必要条件は市民の安全とリスク管理責任者への信頼が共に確保されていることだ。繰り返しになるが、いま両者を満たすには小池都知事の豊洲市場安全宣言しかないと考える(築地市場の安全宣言は改修工事が実施されたとして、それが完了する何年か後でないと難しい)。

 以上、今回のブログでは「食の安心」の必要条件として「安全」と「信頼」があることを解説しました。SFSSでは、食品のリスク管理やリスコミ手法について学術啓発イベントを実施しておりますので、いつでも事務局にお問い合わせください。また、弊会の「食の安全・安心」に関する事業活動に参加したい方は、SFSS入会をご検討ください(正会員に入会いただくと、有料フォーラムの参加費が1年間、無料となります)。 よろしくお願いいたします。

◎SFSS正会員、賛助会員の募集について
 http://www.nposfss.com/sfss.html

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2017(4回シリーズ)
 『市民の食の安全・安心につながるリスコミとは』
  http://www.nposfss.com/riscom2017/index.html

(文責:ドクターK こと 山崎 毅)