TOKYO2020 「安心・安全」で大丈夫なのか?!

[2020年1月21日火曜日]

 "リスクの伝道師"SFSSの山崎です。本ブログでは、毎月食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月はいよいよ2020年を迎え、開催まであと半年とせまっている東京オリンピック・パラリンピック競技大会にむけて、ニッポンの「安全・安心」、リスクマネジメントは機能しているのかについて、考察してみたいと思います。 まず、皆さんも衝撃を受けたであろう有名選手の交通事故に関する記事をご一読いただきたい:

◎マレーシアで事故の桃田賢斗選手 あす夕方帰国へ
 [テレ朝news 2020/01/14 14:27]

 https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000173679.html

 バドミントン競技で世界ランク1位、東京五輪でも当然金メダルの有力候補と呼ばれている桃田健斗選手が、マレーシアでの国際大会でも優勝をとげた後、まさかの交通事故に巻き込まれたという。桃田選手が乗っていたワゴン車の運転手が死亡するほどの大事故で、高速道路において前方を走る大型トラックに追突したというのだから、よく桃田選手たち同乗者の生命が助かったものだと思う。

 この事故の一報をきいたときに筆者が最初に思ったことは、なぜ桃田選手ほどの世界的に優秀・有望なアスリートが、自動ブレーキの装備された自動車で送迎されていなかったのかということだ。筆者自身の自家用車も、ニッサンのインテリジェント・エマージェンシー・ブレーキが装備されており、前を行く車に急激に接近しようものなら、「ピピピ・・」とアラーム音で知らせてくれるだけでなく、おそらく万が一自分が居眠りをしたとしても勝手に止まってくれるはずと信じている(「大丈夫ですよね?ニッサンさん」)。

 もし自動ブレーキが装備された車で桃田選手を送迎していれば、亡くなった運転手さんの生命も救えた可能性が高いし、桃田選手とコーチの皆さんもほとんど怪我を負わずに済んだ(大きな精神的ショックも免れた)のではないか。そう考えると、JOCなのか、バドミントン協会なのか、「チーム桃田」なのかはわからないが、もっとリスク管理を徹底してほしかったところだ。主催者である現地のバドミントン協会に、選手の安全な移動のためのリスク管理をおまかせするのは、少々不用意だったと言わざるをえないだろう。

 あるテレビ報道で見かけたが、問題のワゴン車を手配した現地旅行代理店のコメントとして、「亡くなった24歳の運転手はこれまで2-3年、一度も交通事故を起こしたことがなかった」との弁明を残したそうだ(事実関係は未調査)。もしこのコメントが事実だったとすると、その方々はリスクの定義がよくわかっておられなかったと言わざるをえない。

 「リスク」とは「いま危険」という意味ではない。「何年も事故(危険)がないんだから安全だ」としてリスクアセスメント/リスクマネジメントを怠っていると、不運が重なったときに取り返しのつかない「危険」に遭遇する。「リスク」とは将来の「危うさ加減」「やばさ加減」であり、不確実性をともなうものなので、たとえ過去に事故がなくても、大きなリスクを放置しておくと、突然危険に晒される可能性が否定できないのだ。

 逆に、ヒューマンエラーによる交通事故を想定して、リスクを許容可能な水準に抑える対策(自動ブレーキの装備など、システムによるリスク低減策)をうっておけば、危険には遭遇しない可能性が高い=すなわち「安全」ということだ。全日本サッカーチームのように、海外で大型バスを白バイが先導してくれるようなセキュリティ体制が組めればよいが、どの競技種目でも同じような万全のセキュリティ経費をかけることはできないだろう。しかし、最低限のコストでも工夫をすれば、十分なリスク低減策が組める可能性はあるので、その点についてはもっと議論=リスクコミュニケーションが必要だ。

 とくに、TOKYO2020大会では日本/東京都が主催者なのだから、現地にいるわれわれ日本国民/東京都民が先頭にたって、世界中から集まるアスリートやゲストたちの「安全」を守るためのリスク評価/リスク管理のあり方を議論すべきだ。TOKYOオリンピック・パラリンピック競技大会公式サイトに掲載されている「大会ビジョン」(https://tokyo2020.org/jp/
games/ vision/
)において、3つの基本コンセプト(「全員が自己ベスト」、「多様性と調和」、「未来への継承」)があげられているが、「全員が自己ベスト」の内容として、「万全の準備と運営によって、安全・安心で、すべてのアスリートが最高のパフォーマンスを発揮し、自己ベストを記録できる大会を実現。」とある。

 筆者は、このTOKYO2020の「大会ビジョン」が、今回の桃田選手の事故を契機に、再度見直されることを期待したい。ただ、少々気になっていることがある。それは、東京2020のオフィシャルスポンサーでもあるトヨタ自動車の最近のTVCMにおいて、豊田章男社長が「絶対譲っちゃいけないのが安心・安全」と言われていることだ。「Fun to Drive」や「SDG's」なども確かに経営上重要かもしれないが、すこし「安心」マターに偏り過ぎていないだろうか。

 本日出席した会合にて、橋本聖子東京オリパラ担当大臣のご挨拶をたまたま拝聴したが、オリンピック選手村での食事は「安心・安全のジャパニーズ・ダイニング」で世界中のアスリートをもてなすとアナウンスされていた。すべてのメニューの食材に原産地表示をすることで「安心」をうたうとのことなのだが、東京五輪が開催される夏場の暑い時季に食中毒事故を起こさない「安全」管理のほうが最重要項目じゃないの?と思った方は、おそらく筆者だけではなかったはずだ。

 TOKYO2020の「大会ビジョン」に明記されているのは「安心・安全」ではなく、あくまで「安全・安心」だ。筆者が夢に見るのは、「安全第一」をモットーに、東京のせまい首都高速や一般道においても、居眠りやわき見運転、アクセルとブレーキの踏み間違いなど、ヒューマンエラーによって起こりうる重大交通事故を完封してくれるような自動運転システムや、世界最高の衛生管理で食中毒を一切起こさない食品安全マネジメントシステムで、遠方からの客をもてなすことだ。事故やテロを極力最小限にするリスク評価/リスク管理/リスクコミュニケーションを事前に実行し、世界中から訪れたアスリート/ゲストたちが、「やっぱり東京は安全で快適なメトロポリタンシティだった、安心してスポーツ観戦がエンジョイできた!」と賞賛されるようにしたいものだ。

 以上、今回のブログではTOKYO2020における「安全・安心」について、考察しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(参加費は1回3,000円です)ので、よろしくお願いいたします:

<一般公開シンポジウム> 食の安全と安心フォーラム第18回(1/26)
『消費者市民の安全・安心につながる食品表示とは~食品事業者がお客様のためにできること~』

 http://www.nposfss.com/forum18/

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com