食のリスクの真実は洞察力のある科学者に学べ 
~"偽専門家"のフェイクニュースに騙されるな!~

[2019年2月18日月曜日]

 "リスクの伝道師"SFSSの山崎です。本ブログでは、毎月食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月は食の安全・安心に係るリスクについて語る科学者/専門家の洞察力ついて考察したいと思います。まずは、SFSSが最近実施した週刊誌報道に関するファクトチェック記事をご参照いただきたい:

 ・『食べてはいけない「超加工食品」実名リスト』⇒「フェイクニュース(レベル4)」
  ~SFSSが週刊新潮記事(2019年1月31日号)をファクトチェック!~

   http://www.nposfss.com/cat3/fact/shincho_20190131.html

 昨年も10週連続で国産加工食品の実名リストをあげて、発がん性など生活習慣病のリスクが高いとして「食べてはいけない」ランキングを発表した週刊新潮さんの記事に対して、やはりわれわれSFSSはファクトチェックを実施したわけだが、その際の評価判定は「不正確(レベル2)」であった:

 ・『専門家が危険を告発!食べてはいけない「国産食品」実名リスト』⇒「不正確(レベル2)」
  ~SFSSが週刊新潮記事(2018年5月24日号)をファクトチェック!~

   http://www.nposfss.com/cat3/fact/weekly_shincho0524.html

 以前より科学的根拠を欠いた食のフェイクニュースは、今回のような週刊誌報道やネットニュースだけでなく、TVや大手新聞社でも散見されたが、最近のものは手が込んでおり、部分的には事実に基づいた文献情報を怪しい専門家に語らせる手法で、いかにも「もっともらしい科学報道」が増えてきたようだ。MIT教授のシナン・アラル氏が最近のハーバード・ビジネスレビューの『"フェイクニュース"といかに戦うか』と題する記事の中で、虚偽ニュースを防ぐための課題のひとつとして、高度な虚偽情報としての「混合型(mixed type)ニュース」の問題をあげている(「食のフェイクニュースを拡散するのは誰だ?~週刊誌報道やとんでも本?SNS?それとも・・・~」BLOGOS山崎毅2018年12月18日)

 昨年掲載された一連の週刊新潮記事における疑義言説も、まさにこの「混合型ニュース」、すなわち事実と虚偽を取り混ぜて、事実の下に虚偽が隠れているため、われわれのファクトチェックもより困難になり、最終的な評価判定は「不正確(レベル2)」(事実に反しているとまでは言えないが、言説の重要な事実関係について科学的根拠に欠けており、不正確な表現がミスリーディングである)と、若干インパクトの弱いものになってしまった。

 しかし今回の記事では、「超加工食品」という"魅力的(?)"な疫学研究論文を引用して、「昨年主張したとおり食品添加物が多い加工食品はやはり発がんリスクが高いじゃないか」と言いたげな記事を掲載されたわけだが、これだけ何度も科学的エビデンスを欠いた実名による信用棄損報道を意図的に繰り返されることは社会的大問題なので、SFSSのファクトチェック判定は「フェイクニュース(レベル4)」(言説は事実に反すると同時に、意図的な虚偽の疑いがある)と厳しいものになった。

 このファクトチェックにおいて、真偽検証の取材/調査によって得られた科学的エビデンス情報の詳細は記事そのものをご参照いただきたいところだが、読者のみなさんに注目していただきたいのは、情報源として洞察力のある科学者たちのコメントと国内外の行政機関が公開している客観的・中立的データを参照していることだ。食品の安全に係るリスク評価情報に関して、リスクコミュニケーションを担当している主な国の機関は内閣府食品安全委員会/消費者庁であり、これらの行政機関が信頼して参照するリスク学者かどうかがポイントといえるであろう。

 そもそも週刊新潮が取材された「専門家」の方々は、行政機関が信頼して参照するリスク学者には見えない。「専門家」というからにはそれなりの学位をお持ちだろうし、科学的なリスク評価を過去にやってきた実績はあるのだろうか?まさか「加工食品診断士」などという民間資格(?)しかお持ちでない食品業界の裏事情に詳しいと自称する方や、ハーバード・デンタルスクールで実験をしていただけで「ハーバードの医師」を名乗る方など、消費者市民の不安を煽ることでベストセラーとなっている「とんでも本」を出版している方々を「専門家」と呼んでも大丈夫だろうか。

 筆者にはいかにも怪しい「偽専門家」にしか見えないのだが、週刊新潮さんや週刊現代さんがそれでもこの方々を頼りにしてしまうのは、結局市民の不安を煽って雑誌が売れればよいということなのか。科学を題材とした記事を生業とするジャーナリストなら、もっとプライドをもって食のリスク学や栄養学を学んだうえで、科学者を選んで取材すべきだろう。数年前、マスコミ関係者に向けて、食の安全・安心に関する講演を行った際に、「マスコミは取材先の科学者を選ぶべきと言われたが、どうやって信頼度の高い科学者を選べばいいのか」という質問を受けたことがある。私の回答は「まず複数の専門家から情報を入手することでしっかり裏を取るべきである。あとは僕に聞いてください(笑)」であった。

 洞察力のある専門家は、食のリスクの大小がきちんとイメージできているので、食品中のハザードがどの程度の量なら「食の安全」が脅かされるかを明確に把握しており、その残存リスクを消費者市民に真摯に伝えてくれる。しかし、そのリスクが十分に小さく無視できるレベルの場合、それは「食の安心」マターであり、消費者市民はこれを価値観により合理的選択をするのみであることも理解している。すなわち、いまの国内市場においては、食品添加物・残留農薬・遺伝子組換え作物・食の放射能汚染の4つのリスクは「食の安心」マターであり、クリアすべき「食の安全」マターは食中毒微生物、食物アレルギー、食品自体の栄養成分などだとわかっているのが洞察力のある専門家ということだ。

 SFSSではそのような洞察力のある専門家に、食の安全・安心に係るリスコミの記事執筆をいつもお願いしているので、最近のものを以下でご参照いただきたい:

 ・毒性評価の現場からリスク・コミュニケーションを考える
  青山 博昭(一般財団法人残留農薬研究所 業務執行理事・毒性部長)

   http://www.nposfss.com/cat7/toxicity_evaluation.html

 ・カンピロバクター食中毒のリスク低減に立ちはだかる課題
  三澤 尚明(宮崎大学産業動物防疫リサーチセンター教授・センター長)

   http://www.nposfss.com/cat7/campylobacter.html

 ・複雑すぎる原料原産地表示は、消費者・生産者の利益になるか
  中村啓一(食の安全・安心財団)

   http://www.nposfss.com/cat7/food_label.html

 ・リスクアナリシスで考える残留農薬
  畝山智香子(国立医薬品食品衛生研究所)

   http://www.nposfss.com/cat7/risk_analysis_pesticide.html

 ・近年の食品安全委員会によるかび毒のリスク評価と基準値設定の動向(2018年7月27日)
  髙橋 治男(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)

   http://www.nposfss.com/cat7/mold.html

 ・消費者の誤解は量の概念の不足から(2018年7月27日)
  長村 洋一(鈴鹿医療科学大学)

   http://www.nposfss.com/cat7/consumer.html

 ・HACCPの考え方でノロウイルス食中毒の予防を(2018年7月26日)
  野田 衛(麻布大学 客員教授)

   http://www.nposfss.com/cat7/haccp_norovirus.html

 ・食中毒事件の変遷と対策
  小暮 実(元保健所食品衛生監視員/食品衛生アドバイザー)

   http://www.nposfss.com/cat7/post_62.html

 ・食品添加物のリスコミのあり方
  唐木英明(公益財団法人食の安全・安心財団)

   http://www.nposfss.com/cat7/risk_communication_of_food_additives.html

 ・リスクアナリシスで考える食品添加物の安全性
  畝山智香子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)

   http://www.nposfss.com/cat7/risk_analysis.html

 ・品質保証活動の仕組み
  阿紀雅敏(SFSS理事・元カルビー(株)上級常務執行役員)

   http://www.nposfss.com/cat7/quality_assurance_activity.html

 ・東京大学食の安全研究センター 第29回サイエンスカフェ(2017.10.12)取材報告
  ~ジビエの食中毒リスクとその対策~
  関崎 勉(センター長・教授)

   http://www.nposfss.com/cat7/science_cafe29.html

 ・ひやりはっと事例から学ぶ食物アレルギーの問題点
  近藤 康人(藤田保健衛生大学総合アレルギーセンター)

   http://www.nposfss.com/cat7/hiyari_hatto.html

 ・アニサキス食中毒の原因と対策
  笈川 和男(元神奈川県食品衛生監視員)

   http://www.nposfss.com/cat7/anisakis.html

 ・―最近の食物アレルギー事情とリスク管理の在り方―
  外食におけるアレルギー食品の情報伝達と情報共有の必要性
  小川 正(SFSS理事・京都大学名誉教授)

   http://www.nposfss.com/cat7/food_allergy.html

 ・リスク・コミュニケーションの主人公は誰なのか(2017年5月10日)
  関澤 純(NPO法人食品保健科学情報交流協議会)

   http://www.nposfss.com/cat7/main_character_of_risk_communication.html

 以上、今回のブログでは食のリスクの専門家にとって重要な洞察力について解説しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションの学術啓発イベントを継続的に実施しておりますので、過去実績をご参照ください:

 ◎食の安全と安心フォーラム16 (2019.1/27)開催速報
  『HACCP制度化など食品安全の国際化に必要なことは?
   ~殺菌の同等性評価と新規殺菌手法の現状および課題~』

   http://www.nposfss.com/cat9/forum16_sokuho.html

 ◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2018(4回シリーズ)
   『消費者市民のリスクリテラシー向上につながるリスコミとは』活動報告

   http://www.nposfss.com/cat1/risc_2018.html

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com